特別インタビュー
フェンシング 松山恭助選手、オリンピックを振り返る。
2021.08.07

「子どものころ、おもちゃのライトセーバーで遊んでいたのは、フェンシングを始めたきっかけのひとつですね。アナキン・スカイウォーカーがお気に入りのキャラクターなので、彼の光と闇がしっかり描かれている『エピソード3/シスの復讐』がいちばん好きな作品です」
そう語るのは、東京オリンピック フェンシング日本代表男子フルーレキャプテンを務めた松山恭助選手だ。スター・ウォーズシリーズのファンで、スピンオフ作品なども網羅しているという。
東京オリンピック10日目 8月1日、メダルがかかった大一番のフルーレ団体戦準決勝。格上のフランス代表に対して最後の最後で猛追を見せ、あわや大逆転勝利というところまで追い詰めた松山選手。彼の華麗な剣さばきと躍動に大興奮した人は決して少なくないだろう。まっすぐな眼差しと誠実な話ぶりが印象的な剣士に、自身初めてのオリンピックを振り返ってもらった。

「自分のパフォーマンス自体にはある程度、満足しています。ベストを発揮することができたと思っています。僕は常に“その瞬間・瞬間にベストを尽くす”ことを意識して練習や試合に臨んでいますが、オリンピックの舞台でもそれができました。それは自信につながりました。一方で、勝負師として、勝てなかったことはとても悔しい。ベストを尽くしてもメダル獲得という結果がついてこなかったという事実が悔しさに繋がっています」
オリンピック出場に至るまでの数年間は、自分の思うようなパフォーマンスができず、もがき苦しんだ時期だったという。“自分のフェンシングとは?”を自らに問いかけつづけ、試行錯誤を重ねてきた。そんななか、オリンピック直前で自分のフェンシング像が徐々に明らかになり、その“自分のフェンシング”を迷いなく表現できたのが、今回の東京オリンピックでの収穫のひとつだったという。松山選手のフェンシングとは?
「どちらかというとディフェンシブなタイプです。一方で、相手を手のひらで転がす、というか、ゲームを支配する、というのが僕の持ち味なんです。そういった自分の持ち味をオリンピック前に気づけたのはとても大きかった。それまでは、色々意識しすぎて集中できず敗北するというケースが結構あったのですが、自分のスタイルがわかってからは試合運びがとてもクリアになりました」
大きな収穫を経た若き剣士だが、彼のオリンピックはまだ終わっていないようだ。
「不思議なんですが、オリンピックが終わったという実感がなく、まだ続いている感じがあります。たぶん悔しさがあるからだと思います」
勝負師は負けを糧にし、未来を見据えている。

「次の大きな目標はもちろん2024年のパリ・オリンピックです。ただ、今目の前にあるのは、次回の全日本選手権(2021年9月開催予定)で、それに向けてすでに準備を始めています。まず目の前の試合が大切で、それに勝って初めて次のステージにいけると思っています。東京オリンピックで負けたという経験は、オリンピックで勝つことの特別さを教えてくれました。その感覚があるからこそ、これからの3年間、フェンシングに対してより貪欲に取り組めるようになれると思っています。いろんなことにチャレンジすることを大切にしたいと思いますね」
落ち着いた口調で“負けた悔しさ”を語る松山選手だが、その胸の内にある勝利への飽くなき情熱は言葉の端々から強く伝わってくる。彼がアスリートしていちばん大切にしていることは“強くあること”。成績をしっかり残すことこそ全てだと語る。
「リスペクトされるアスリートになるためには、人格者であることも大切だと思っています。自分の考えを言葉だけではなく、行動でも示せるような。そうすると、説得力も生まれて、フェンシングという競技の日本での人気向上にも繋がると思います。競技のさらなる普及は、競技者としてもモチベーションが上がるので、期待したいところです」
3年後のパリで、松山選手の剣からどんな光が放たれるのか、今から楽しみでならない。
Text:Ryohei Kawai
Photo:Makihiko Kumekawa