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『FARGO/ファーゴ』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #3

2021.09.09

『FARGO/ファーゴ』<br>いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #3

これこそが、おしゃれな海外ドラマだ!と胸を張って言える。

1996年に公開し数々の賞を受賞したコーエン兄弟の名作映画『ファーゴ』。彼らが自ら製作総指揮を執り、映画の世界観に着想を得た犯罪サスペンスドラマとして昇華。現在、NETFLIX、Amazon Prime Video、Huluなどでシーズン3まで配信中だ。

冒頭、「THIS IS A TRUE STORY(これは実話だ)」と注釈が入るが、これはコーエン兄弟の粋なジョーク。もちろん実話ではなく、つまりそういうところがコーエン兄弟なのである。

雪が降りしきる小さな街で起きる殺人事件。各シーズン、年代もストーリーも別物だが、「あっあのときの……」とヲタク心を揺さぶる展開も随所にちりばめれられている。

S1では保険セールスマンのさえない中年男レスターが、ひょんなきっかけで殺し屋マルヴォと出会い、連続殺人事件に巻き込まれてゆく。妻には負け犬とののしられ、同級生にもイジメられ、弟にも見下された男が、殺人をきっかけに根拠のない自信を持ちはじめ、完全に調子に乗ってしまうのだ。

レスターのすべての嘘が、とにかくひきょうで穴だらけ。窮地に立たされると、こうも愚かなのかと笑ってしまうほどである。

ダメ男から救いようのない男への転落を見事に演じたのはマーティン・フリーマン。「情けない男×狂気」を演じさせたら右に出るものはいないだろう。

そして、正体不明の殺し屋マルヴォをビリー・ボブ・ソーントンが演じた。

マルヴォの言葉には妙な説得力があり、相手の行動を抑制したり奮起させたりする不思議な力があるのだが、どう考えてもデタラメ。そのデタラメさとは裏腹に、表情を変えず確実に殺しを遂行してゆくそのギャップが、たまらなく魅惑的でもある。

S2の主演はキルスティン・ダンスト。街の地味な美容室で働く彼女はうだつが上がらない夫と暮らしていたが、ある日、人をひき殺してしまった。その相手は、なんとこの街を仕切るマフィアのボスの息子だった……。

S3では双子の兄弟の小さな確執から始まり、犯罪組織を巻き込む大惨事に。その双子の兄弟をユアン・マクレガーが1人2役で演じている。もうこれだけで面白い!

サスペンス要素はいたってシンプルだ。しかし、小さな町ならではの排他的でクセの強い登場人物と、過剰な自意識や嘘が事態をとんでもない方向へと進めてゆく。

総じて共通しているのは、普通に暮らしていた人がひょんなきっかけで罪を犯し、今まで思いもよらなかった自身の卑劣さや醜さ、閉ざされていた狂気が浮き彫りになること。それらを認識したとき、人は思いもよらない行動に出る。そのこっけいさが、皮肉にも「事実は小説よりも奇なり」ということであり、冒頭の「THIS IS A TRUE STORY」はその伏線でもある。

この独特のユーモアに、どっぷり漬かってみてはいかがだろうか? きっとおしゃれの意味がわかっていただけるはずだ……。

Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo

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