カジュアルウェア
四季の色を封じ込めたロングホーズ。
2022.01.24
ファッションエディターの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。
異常に短くなった流行のスパンに振り回されたり、逆に服選びに時間を取られるなんて無駄だと悟ったり。装いにおける価値紊乱(ぶんらん)の時代に、なぜか77歳のファッションディレクター、赤峰幸生さんが人気を集めている。
ご存じない方に説明すると、赤峰さんは1960年代から紳士服業界をけん引してきた、この世界では知らぬ者はいない大御所。近年は「アカミネロイヤルライン」という注文紳士服レーベルを立ち上げ、顧客と一対一で向き合っているのだが、いつの間にか業界内有名人の枠を大きく飛び越えた存在に。インスタグラムのフォロワーは約4万人、地方で開催されるオーダー会には、20〜30代の若者からの予約が殺到する。まさに赤峰現象だ。
とはいえ、赤峰さんはファッションの薀蓄(うんちく)や流行を語ることには興味がない。窓を開けたときに感じる季節の移ろい、道端に咲く花の色、喫茶店で飲むミルクティーの、ミルクとお茶のバランス……。彼が教えてくれるのは、僕たちの生活のなかに潜む美しさであり、装いはあくまでその副産物だということ。赤峰さんと話していると、昔の日本人には当たり前に備わっていたであろう四季を愛め でる感性が、自分にも養われていくような気がする。そしてコットンスーツに付いたおしょうゆのシミすらも、いとおしく感じられるのだ。デジタル社会を生きる若者たちにとっては、この感性こそがクールなんだろう。
そんな赤峰さんが、この秋オリジナルのロングホーズを発表した。長年の付き合いになる国内の紡績会社と共に糸から開発し、12色セットで販売するという。春夏秋冬の色をそのまま封じ込めた絶妙なカラーパレットは、まさに赤峰さんの暮らしと装いの哲学そのもの。今日は早速オフホワイトをはいて、ミルクティーでも飲みに行こう。
山下英介(やました・えいすけ)
ライター・編集者。1976年生まれ。『LEON』や『MEN'S EX』などの編集や、『MEN’S Precious』のクリエイティブ・ディレクターに従事した後、独立。趣味はカメラと海外旅行。
Photograph: Satoru Tada(Rooster)
Styling: Hidetoshi Nakato (TABLE ROCK.STUDIO)