特別インタビュー
株式会社 ビーグリー
代表取締役社長
吉田仁平インタビュー[後編]
[ニッポンの社長、イマを斬る。]
2022.04.28

全員が強度を上げて仕事をすべきとは思わない
さて、今年2月に会員数600万人を超えた『まんが王国』だが今期は海外配信をスタートするという。日本のコミックは海外ファンの多そうなイメージだが「アニメやYouTubeで盛り上がっても原作コミックまで読むユーザーは少ない」。だからこそ、もう一歩踏み込みたいのだ。
「日本でヒットした作品が向こうで人気コンテンツになるのはうれしいです。でも、日本でヒットしなかった作品が海外の『ある地域』や『ある言語』において、ものすごく刺さる可能性だってある。そんな驚きや発見にも期待していますね」
過去には、紙媒体で日の目を見なかった作品が『まんが王国』の作品提案を機にブレイクを果たしたこともある。サービスの担い手としてヒットの着火点になれることは醍醐味(だいごみ)のひとつだろう。吉田は言う。
「採算分岐点が高くなる出版物と比べ、配送などのコストがかからないネットはそもそも流通カロリーが低いんです。必ずしも売れ線を狙う必要性はないですし、新たなジャンルにもチャレンジしやすい利点があります。コミック雑誌が休刊してしまったり、作家さんの発表の場が減りつつある現状だからこそ、われわれがもっと頑張りたい。クリエイターの成長や支援というと上から目線でおこがましいのですが、個人が埋もれずに輝ける場所を提供しつづけたいですね」
冒頭でも触れたが、吉田自身は反対されるほどに闘志を燃やすほうだとも言う。ただし、同じことを周囲に求めることはないし、むしろその逆であったりする。ビジネスパーソンへのアドバイスをと問うと人柄のうかがえる答えが返ってきた。
「全員が全員、強度を上げて仕事をすべきだとは思いません。たとえば、野球が好きだといっても大リーグを目指す人から休みの日にキャッチボールしたい、という人までさまざまです。すべて同じ『野球好き』でくくってしまうからズレやひずみが生じるんだと思うんです。自分の現在地やメンタル強度を考慮したうえで、どこを目指すのか。どの程度の時間軸で達成したいのか。何をやるにしても、自分の設定は整理したほうがいい。そこから始めていけばいいと思うんですね」

プロフィル
吉田仁平(よしだ・じんぺい)
1971年福島県出身。実家が酒屋だったため、幼少のころから商売を身近に感じて育つ。早稲田大学理工学部卒業。1994年日商岩井(現・双日)入社し、2006年グループ会社であるモーラネット社長に就任。コンテンツビジネスに魅せられて、07年ビービーエムエフ(現・ビーグリー)入社。『まんが王国』の初期から携わる。同社・執行役員、取締役などを経て13年に代表取締役社長に就任。趣味はゴルフと旅行。
Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima