週末の過ごし方
『ザ・ファットダック』の卓上の旅。
山本益博
2022.05.02
最近「VRメタバース」という言葉を友人たちから教わった。
「フェイスブック」が社名を「メタ」に変えたことはニュースで知っていたが「メタバース」は聞いたことがなかった。
英語の「metaverse」は「meta」(~を超える)と「universe(宇宙)」の「verse」を組み合わせた造語で、オンライン上に作られた3DCGの仮想空間のことだという。「VR」はヴァーチャル・リアリティの略。
この造語、もともとはSF作家ニール・スティーヴンスンが1992年に発表した作品「スノウ・クラッシュ」に出てくる、架空の仮想空間サービスにつけられた名前だった。その後、さまざまな仮想空間サービスが生まれ、それらの総称として広く使われるようになったという。
この「メタバース」でどんなこができるかというと、誰もがアバター(化身)で参加し、遊んだり、学んだり、旅をしたり、またパーティーに参加し、仲間と集うなど、仮想空間に自分を自由に存在させることができる。
視覚、聴覚をフル動員させ、触覚も実際には触っていないのに、それに極めて近い感覚も体験できるのだが、香りをかいだり、味わったりする味覚の点では、まだ未開発なのだという。仲間が集まり、テーブルを囲み、同じ料理を食べながら、それぞれが味わう感想を共有することはできるのだが、味覚を働かせることはまだできないらしい。
インターネットのオンラインで「VRメタバース」を使いこなしている人が多くいることを知って驚いたが、私たちもコロナ禍で日常化したリモート会議などで、それに近いことをやっているのだなということを感じた。
「Traveling without moving」は、「VRメタバース」こそうってつけではなかろうか。
私は世界がコロナ禍になる直前まで、毎年ヨーロッパへ3、4回、アジアへ2回、アメリカへ1回、旅をしていた。そのほとんどが料理とオペラの旅だった。
フランス、イタリア、イギリス、ベルギー、デンマークへは毎年出かけた。フランスはパリの『アルページュ』『ジュール・ヴェルヌ』、パリを拠点にノルマンディの『ラ・グルヌイエール』、マントンの『ミラズール』、サヴォアの『マルク・ヴェラ』など。どれも代替えのレストランが日本に存在しない。なぜなら、彼らは私が見るところ、天才料理人ばかりで、もし彼らのコピーの料理があったとしても、満足がいかないからだ。
2010年代になるとパリ『ランブロワジー』『アルページュ』『ル・サンク』、ロンドン『ザ・ファットダック』、コペンハーゲン『ノーマ』、モデナ『オステリア・フランチェスカーナ』へは毎年のように出かけた。なかでも、ロンドン郊外ブレイ・アン・テームズにある『ザ・ファットダック』は、いま世界で最も私のお気に入りのレストランと言ってよい。