週末の過ごし方

名シェフは辺境を目指す(後編)
【センスの因数分解】

2022.05.26

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アマゾンカカオの輸入業も行う太田哲雄さん。現在は多くのレストランが彼の仕入れるカカオを使用している。『フロリレージュ』の川手寛康シェフなど、カカオを採り入れる名店のシェフたちを連れ、現場であるペルー・アマゾンへ旅をし、生産者とコミュニケーションを取るのも、彼の大切な活動だ。

“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。何やら名シェフ動向に異変アリ⁉

「このような動きを、予見していたのか、とよく言われますが、ずっと前から見据えていたビジョンで予見ではないんですよ」。長野県軽井沢の駅から南に車で10分ほど。「アマゾンカカオ料理人」の異名をもつ『ラ・カーサ・ディ・テツオ オオタ』のオーナー太田哲雄シェフはそう切り出しました。

太田さんは、ヨーロッパや南米など世界の名店で経験を積み帰国。東京世田谷区にある『NATIVO』で腕を振るった後、小さな一軒家でレストランとアマゾンカカオを使った菓子工房を開いています。この地へ移ったのは2018年。現在のムーブメントの先駆けのような存在です。

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「私は軽井沢町と同じ、長野県出身です。世界の名だたるシェフのもとで働いてきましたが、彼らは皆、自身のアイデンティティーを非常に大事にしています。そんな様子を目の当たりにしてきたので、海外で仕事をしていた当初から、長野に拠点を持つことは想定していたんです。故郷を料理人として盛り上げていくことが、東京という中央で活動するよりも意義があることだと私は思っています」

SDGsは世界で掲げられる目標ですが、食料問題はそのなかでも看過できない項目。また世界の名シェフは、食料を発端にした児童労働や貧富の差などの問題に積極的に取り組む人が少なくないと太田さんは言います。そのような姿を間近で見てきた彼は、さらに一歩踏み込んだ活動を進めます。

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    ラ・カーサ・ディ・テツオオオタ 長野県北佐久郡軽井沢町大字発地342−100 海なし県・長野のレストランとして地場の食材を中心に提供。基本として海産物は使用しないという。水は片道40分かけ毎日湧き水をくみに。不定休。
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「隣の物件を手に入れ、郷土料理と物販の店を始めます。出身地・白馬村の近くに小川町というところがあるのですが、そこでは“ 凍しみ大根”という寒干し大根を使った煮物が有名です。この煮物を提供するのに、村の大根をすべて買い取りました」

長野五輪でバブルが起きた周辺地域も、現在はそのしわ寄せにあえぐ人が少なくないと言います。「未来の種まきをするのも料理人の役目」と話す太田さん。世界を旅した彼が導き出した道、それは地元との協働から蘇生へとつながっているのです。

「アエラスタイルマガジンVOL.52 SPRING / SUMMER 202」より転載

<<名シェフは辺境を目指す(前編)はこちら

Photograph: Shimpei Fukazawa

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