週末の過ごし方

復活優勝の金田久美子、
「天才少女」だった頃に見せた“鋼のメンタル”
「そんなことはしていません」

2022.11.04

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写真:東京スポーツ/アフロ

国内女子ゴルフツアーの樋口久子 三菱電機レディスゴルフトーナメントで、33歳の金田久美子が、11年189日ぶりのツアー通算2勝目を飾った。1988年のツアー施行以降では、最長ブランク優勝。一時は引退を考えるほどのスランプを乗り越え、本人は「あきらめなくて良かった」と涙を流した。ツアー関係者らが、「今季、最も感動的な優勝だった」と声をそろえた復活劇。天才少女だった頃の「すごさ」を振り返りながら、金田がどう変わったかを紹介する。

涙の復活優勝から一夜明け、金田はインスタグラムにあふれる思いをつづった。

「信じられない数のお祝いのお言葉を頂き感無量です。アスリートとして、こんなに幸せなことはありません。心無いコメントを目にする機会が多く、でら嫌われてるじゃんなんて思うことも多々ありましたが、見えないところではこんなにもたくさんの方に応援して頂いていたんだなぁと心がぎゅんってなりました」

心ないコメントは、食事、ファッションの写真を投稿したときなどに届いていたという。表彰式後の会見で明かした。

「『そんなことしてるから、勝てないんだ』とか『もっと、練習しろ』とか結構すごい量来るんですけど、『絶対勝って見返してやる』とずっと思っていました。『気にするな』と言われても難しい、メンタルが良いときは 平気なんですけど、やっぱり調子悪かったり、メンタルが下がっているときは結構、キツくて……」

スランプ時は、ゴルフ場を見て涙、嘔吐(おうと)、じんましん

深刻なスランプも経験し、一時はドライバーがキャリー140ヤードのチーピンしか打てず、アイアンショットは、フェアウェーからでもグリーンに乗せられなかった。カップまで50センチのパットも外していたという。「こんなの自分の描いたプロ人生じゃない」「辞めなければいけないのか」。思いはめぐり、メンタルも不調になった。

「ゴルフ場を見るだけで涙が出てきたり、吐いてとか、じんましんもすごかったりとか……」

金田は3歳でゴルフを始め、8歳で世界ジュニア選手権(10歳以下の部)を制し、タイガー・ウッズに並ぶ記録を作った。以降も4度、世界ジュニア選手権で優勝。日本ジュニアのタイトルも手にした。国内ツアーでは、02年リゾートトラストレディスで最年少予選通過記録(12歳9カ月)を樹立。04年ゴルフ5レディスでは、最終日最終組で優勝を争って3位に入っている。

「強い気持ちでイケイケな感じでしたからね。勝つか負けるか、優勝しか見ていなかったし、最終日7打差とかでも、『わからないよ』と思っていました。それなりに自信あったのかなと思います」

国内ツアー史上、本気で優勝を目指し、実現可能だった中学生は、金田のほかにいない。当時は宮里 藍、横峯さくら、諸見里しのぶ、上田桃子ら若手プロが台頭し、不動裕理も全盛期だった。プロたちから見れば、金田は「脅威の存在」。しかも、中学生にしてメイクはバッチリで、日本女子プロゴルフ協会の樋口久子会長(当時)からは「あなた、目の周りが真っ黒よ」と叱られていたという。第一線で活躍していたプロからは「見た目とは違って、礼儀正しかった。ちゃんとしていた」の証言もあるが、金田は高校1年生の2005年、日本女子オープン第2日に同組のベテラン選手から激しくクレームを受けた。

ベテラン選手クレームから2罰打、翌日ベストスコア

「(グリーン上で)マークしたときより、カップに近い位置にボールを置いた。違反だ」

本人は「そんなことはしていません」と強く否定した。相当、抵抗したのだろう。結論が出るまでに長い時間がかかった。しかし、競技委員は「違反行為」と断じた。結果、金田は2打罰を科せられ、通算9オーバーの55位。カットライン上で予選通過はしたものの、納得はしていなかった。「メンタル面は大丈夫か……」。心配されたが、金田は翌日の第3日に全体のベストスコア70をマーク。通算7オーバーで一気に16位に浮上し、最終成績は17位だった。16歳にして「鋼のメンタル」を印象づけた。

そして、その存在感はさらに大きくなり、「いつ優勝してもおかしくない」と見られていた。だが、天才少女は自他ともに認める「練習嫌い」だった。一方、同世代選手は豊富な練習量をもとに成長。金田は高卒1年目で受けた08年度最終プロテストに1打届かず不合格になっている。「まさか」のことだった。

09年からは、ツアー予選会(QT)を受けてのプロ生活となり、3年目の11年4月、フジサンケイレディスクラシックで優勝。天才少女は、21歳の大人になっていた。

苦労してつかんだ初優勝。ツアー関係者、ファンも「これからは何度も勝つだろう」と思い、本人も「しっかりと練習をするようになっていましたし、賞金女王も目指していた」と振り返る。だが、現実は厳しく、17年からは賞金ランキング51位以下のシード圏外に。18年からは、「黄金世代」と呼ばれる1998年度生まれの選手が台頭し、その下の選手たちも、ツアーで上位に入るようになった。

この状況下、金田は自身のスランプも踏まえ、「もう、辞めなければいけないのかも」と真剣に思っていた。中学、高校時代にあった「鋼のメンタル」も失い、「全部、壊れた状態だった」と言う。

それでも、クラブは握りつづけた。ゴルフの世界に導いてくれた父、11年前から試合に帯同してくれているマネジャー、(所属先の)スタンレー電気・北野隆典社長(昨年1月26日に死去)、スコアが悪くても18ホールを一緒に歩いてくれる熱心なファンがいたからだ。「私以上に私を信じてくれていました」。そして、「感覚頼りでゴルフをわかっていなかった」ことを認識し、コーチをつけ、スイングを改造。自身でも、スイングに伴う体のメカニズムを学んだ。昨夏、左足首の捻挫で「フルスイングができなくなった」が、取り組んだハーフショットで方向性が安定。「けがの功名」となった。その後、本格的な体幹トレーニングを始め、「細く強い体」に生まれ変わった。

元天才少女は、想像もしなかった挫折、スランプを経て、「努力の天才」となった。長いブランクでつかんだ2勝目は、同じように苦しんでいるプロたち、プロテストに合格できずに悩んでいる選手たちの励みになったことだろう。そして、金田本人の「自信」にもなったはずだ。

優勝翌日の10月31日、金田はトレーニング姿をインスタグラムのストーリーに公開した。

「浸る時間はあっさり終わり。今日も通常運転です」

かつては、「25歳での引退」を公言していたが、輝きを取り戻した33歳は、「これからもやるでしょう。納得するまで」と笑顔で言った。目標は「次の1勝」。それだけだ。

>>復活V目指す25歳の永井花奈、怖い物知らずのルーキーをうらやまなくなった理由。

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