カジュアルウェア
新潟の熟練職人が手がけたカシミヤのニットジャケット
スゴ技だらけでこれは絶対買い!
ファッショントレンドスナップ163
2022.11.09
ニットジャケットやストレッチジャケット、イージージャケットなどなど、さまざまな名前のジャケットが出ていて、混乱している人は多いのではないでしょうか。
大きく見ると、今回挙げた3つのジャケットは、従来の芯材が入った構築的なジャケットが進化したもの、別分野のものをジャケットに近づけたものに分かれます。それは、先祖が違うというか、そのDNAがまったく違うと言ってもいいくらい違うのです。
一般的に販売されているストレッチジャケットやイージージャケットと呼ばれているものは、基本コンセプトが従来のジャケットから進化したものが多く、糸や織り方を工夫することで生地が伸び縮みし、着心地が楽になり動きやすくなったもので、デザインや生地感はそれまでのものとほとんど変わりません。
※広い意味ではストレッチジャケットという言葉は、伸び縮みするニットジャケットも含みますが、販売上では別アイテムとして区別されています。
それに対して、ニットジャケットは、その名が示すように元々はセーターやカーディガンなどと同じ編み物で、編み方を工夫してジャケットのような襟がついています。そのため、ニットジャケットは驚くほど伸びるし、はおっているような軽い着心地が特徴。
ただし、実際にジャケットのようなきちんとした見え方に仕上げるには、テーラードスーツとは違う、専門のデザイナーによる編み目の設計と熟練のニットを編み上げる職人の技がうまくかみ合わないと仕上がりません。
そのためか、昔から海外のブランドのものではよく目にしていたものの、ウール素材で10万円を超えるものがほとんどで、会社に気軽に着ていくようなものという感覚はあまりなく、モードやトレンドを追う人向きのレアなアイテムでした。
そうしたニットジャケットに新風を起こしたのが、今回スナップさせていただいたジェントルマン。実は、脱サラして服飾の学校でニットを学び直し、ニットの会社を起業したという肩書の持ち主でした。
「日本には世界に誇れる技術を持ったニット工場がいくつもあります。ただ、どこも仕事が海外に流れてしまい、2000年からコロナ禍の前までは、受注が年々激減し、廃業する工場や工房が後を絶ちませんでした。そうした、状況を見ながらこうした技術を絶えさせてはいけないという使命感と、ニット好きが高じて起業してしまいました。いま着ているニットジャケットは私の渾身の一着です」とお話しいただいたのはフェイバニッツの代表でありデザイナーの市勢義浩さん。
日本各地の小さなブランドが中心の展示会場でお会いしたのですが、体に沿った立体的な編み方と美しい襟の形を見ただけで、これはただ者ではない!と感じ早速お声がけしてスナップさせていただきました。
「いま着ているのは今年の新作で、糸はカシミヤで凹凸感のある変形ハニカムに編んで独特の風合いを出しています。着心地が軽く暖かいのが特徴のひとつです。ビジネスでも使っていただけるように、襟はテーラードのような存在感が出るように編み立てを工夫しています」と市勢さんのこだわりが炸裂。
私の少ない経験でも、このニットジャケットを見れば「さぞかし工場泣かせ、職人が手を焼くようなことをサラっと言ってますね笑!」と返したくなるところ。逆に見れば、そうしたことをニットの経験の少ない市勢さんが、やり遂げたというのはブレない信念と高いコミュニケーション能力があってこそ。
どこの国の職人や工場も同じですが、一見(いちげん)さんがやってきて思いどおりのものを作るのは至難の業で、門前払いに始まり、たび重なるサンプル修正などなど苦難の連続で、途中で心が折れて断念するというのがよくあるパターンなのです……。