週末の過ごし方
ファッション業界の課題を解決する日本の知恵とは?
山下徹也×山本晃弘 スペシャル対談[前編]
2022.11.25
「消費者が『価値あり』と思う商品をつくることです」 山下氏
山下 出店にあたってのマーケティング精度が低下し、スペース(棚)を埋めることが基本となってしまいました。さらに、価格も百貨店基準ではなく、どこよりも安価なミドルからロワープライスの設定となる。ある施設で売り上げの実績を上げれば、同系列の別施設への出店が期待できますから。
山本 店舗単位の数字を重視するようになったと。
山下 ブランドを統括して、店舗へ商品を入れるメーカー本社側の担当者と、店舗を運営する責任者が別であることは多い。店舗での売り上げはきちんとあるのにブランド自体の利益は上がらなくなってきて、利益相反が出てきます。
山本 店舗に在庫が生まれますね。
山下 商品をかなり値引きして販売することになります。それが家庭に流れ込んでいる。
山本 問題はすごく明解ですね。
山下 リサイクルなどの循環が言われますが、それは出口の問題。まずは水が出っ放しの大元の蛇口を締めることが必要です。
山本 そういった過剰供給を止める手段としてどんなことが考えられますか。
山下 ブランドらしさを追求した商品、シーズンごとに替わらない商品をつくることです。
山本 トレンドを追わないということですか。
山下 そういうものがあってもいいですが、何割かは3~4シーズンは着られるベーシックなものをそろえておくべきだと思いますね。
山本 トレンドを追うと同質化する。最初に手掛けたブランドはいいですが、二番手以降は価格競争となり、結果的に在庫が増える、現場に負担をかけるという悪循環になります。
山下 前年比で100%を超える売り上げに達しなくても利益が出るように、消費者が「価値あり」と思う商品をつくることです。例えば、長く着られるとか、メーカーのメンテナンス体制がしっかりしているとか。
※1 大店法
正式名称は大規模小売店舗法。大規模小売店舗の事業活動を調整、周辺の中小小売業者の事業活動の機会を適正に保護することを目的に大型店舗の出店に規制を設けるもの。1974年に施行されていたが、緩和を経て2000年に廃止された。これにより、郊外を中心に大型のショッピングモールの開店が相次いだ。
山下徹也氏
ifs未来研究所 所長代行
1974年生まれ。アントレプレナーとして事業経験後、現職に。 2022年よりifsのシンクタンク組織であるifs未来研究所を継承。考え、行動することを信条に、ステークホルダー全体で社会問題に取り組む「インクルーシブインパクト」を提唱する。
山本晃弘
アエラスタイルマガジン エグゼクティブエディター
1963年生まれ。「メンズクラブ」「GQジャパン」などを経て、2008年「アエラスタイルマガジン」を創刊する。2019年に「ヤマモトカンパニー」設立、アエラスタイルマガジンweb編集長のほか、YouTubeチャンネル、服飾ジャーナリストとしても活躍している。
Text: Mitsuhide Sako