週末の過ごし方
ファッション業界の課題を解決する日本の知恵とは?
山下徹也×山本晃弘 スペシャル対談[前編]
2022.11.25
SDGs=サステイナブル・デベロップメント・ゴールズは、これからの世界が目指す旗印となっている。だが、環境への取り組みは単なる数値達成で終わるものではない。同時にカーボンフリーなどの技術的な施策にとどまらない。あらゆる産業のなかで環境負荷が2番目に高いと指摘されるファッション業界は、どこまで課題に向き合っているのか。アエラスタイルマガジン エグゼクティブエディター山本晃弘が、さまざまな課題をifs未来研究所の山下徹也氏と語り合う
ファッション業界が抱える大量の在庫問題
山本 ファッションについて語るうえで見逃せない項目のひとつに、在庫の問題があります。その現状を教えてください。
山下 1990年、日本でのアパレル産業の売り上げは15兆円ほどありました。その後次第に減少し、リーマンショックから2019年まで9兆円の横ばい、20年はコロナ禍で、7・5兆円です。以前に比べると半減していますね。
山本 服の数が減っているわけではないですよね。
山下 はい、供給量は過去30年で2倍です。
山本 メーカーは、売れなかった服をどうしているのでしょうか。廃棄処分される割合が、4割とも5割とも聞いたことがあります。
山下 以前、有名ブランドが自社製品を焼却しているニュースが話題になったことがありました。それがセンセーショナルにとらえられたせいかもしれませんが、実態はまったく違います。われわれのほうで調べてみたところ、メーカー側で廃棄しているのは、1%から多く見積もっても2・5%程度のようです。
山本 かなり違いますね。どうして、4~5割が廃棄されていると言われているのでしょうか?
山下 2004年ごろ、メーカーが自社商品の半分程度をセールやアウトレットで販売していることが「捨てている」と曲解されて伝わったことにあるようです。
山本 なるほど。一方で供給量が2倍になり、市場規模が半分になっている。ここの不均衡はどうとらえていらっしゃいますか。
山下 価格が40%ほど下落している。完全にデフレ化しています。
山本 そうですか、安いものが出回っているわけです。値崩れして適正な値付けがされていない。それは、われわれ消費者側の要求なのか、ブランド同士の競争のせいなのか……。
山下 そうした市場メカニズムによってデフレ化していった側面もありますが、ビジネス面で供給過剰になっているもっと大きな原因は、大店法(※1)が廃止されたこと。これにより、2000年初めごろから日本でも郊外を中心に大型商業施設ができるようになりました。
山本 郊外型ショッピングモールなど、店の規模が大きくなったことで商品の量が必要になったと。
山下 そのとおりです。つまりオーバーストアですね。都心の百貨店の出店面積が10坪くらいだとしたら、大型商業施設では45坪、場合によっては300坪ということもある。これによって、メーカー側の出店が百貨店から郊外型の大型施設へとシフトしてきました。
山本 ファストファッションも含めて、あらゆるブランドが出店することになりましたね。
山下 大型ストアでの売り場の確保を優先させ、大きくなった面積を埋めるために、自社製品以外も並べることにしました。セレクトショップの形態に近くなったのですが、これが結果的にブランド価値の低下を招いたんですね。
山本 スペースのためにたくさんのアイテムを並べる。同じことをほかのアパレルメーカーもやってくる。いっぽうで、ひとつの商圏で購入するお客さまの数は限られています。仮に洋服を買う消費者が地域に1万人いるとして、そこに商品を大量に入れるのはいいですが、他社も同様にその市場を狙ってくる。
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