週末の過ごし方
ファッション業界の課題を解決する日本の知恵とは?
山下徹也×山本晃弘 スペシャル対談[後編]
2022.12.02
世界へ向けて発信する日本古来の商いの知恵
山本 日本のファッション業界はどうしていくべきでしょうか。
山下 アメリカは今後も成長しつづけるでしょう。アジアでは中国よりもインドの伸びしろが大きいと思います。欧州はSDGsという競争軸をつくり、環境を第一としています。気候変動が悪化すると、社会や経済も成り立たないということですね。
山本 「三方良し(※4)」という日本の知恵をあらためて見直したいですね。売り手、買い手、世間各々(おのおの)が“利益を得る”という商習慣です。
山下 環境に重きをおく欧米のSDGsより進んでいると思います。
山本 数値目標にとどまらない、さらに俯瞰(ふかん)した概念だと思います。
山下 今の時代にもフィットしていると思います。ただ、こうした考え方は、海外に知られていない。
山本 確かに。
山下 こうした価値観を広めていく意味は大きいと思います。さらに日本ならではのリサイクルスキーム、きめ細かな設計、クリエイティビティを売っていけばいい。
山本 世界に発信できますかね。
山下 中国よりも中間層の伸びが期待できる南アジアを、第一の発信先にしたらいいと思います。まずは国内の体制を筋肉質に変えて、すぐ近くの海外市場をターゲットとして視野に入れていく。
山本 それが欧米にも広がって、その結果、世界中に受け入れられるかもしれない。確かに日本のファッションやカルチャーは海外でも人気があります。こうした価値観の発信で、さらに日本のプレゼンスを高めていければと思います。本日は、ありがとうございました。
※2 リジェネラティブ
意味は「再生」。地球環境の改善が目的だが、サステイナブルの持続可能というスタンスに比べ、現状よりさらに良くするポジティブなアプローチとして、欧米では農業や販売業における次の目標になりつつある。
※3 パタゴニア
1973年にカリフォルニアで創業したアパレルブランド。主力はアウトドア用衣料品で、ほかにバッグ、スポーツ用品、靴などを扱う。早くから環境対策を企業理念に掲げ、ペットボトル再生素材、オーガニックコットンを他社に先駆けて採用している。
日本支社長のマーティ・ポンフレー氏のインタビューはこちら
※4 三方良し
日本の大企業の多くがルーツを持つ近江商人が江戸時代に唱えたもので、企業の利潤追求のみならず、消費者、世間にも利益還元があるべきとする哲学。松下幸之助が心がけた言葉であり、伊藤忠商事でも企業理念に掲げている。
山下徹也氏
ifs未来研究所 所長代行
1974年生まれ。アントレプレナーとして事業経験後、現職に。 2022年よりifsのシンクタンク組織であるifs未来研究所を継承。考え、行動することを信条に、ステークホルダー全体で社会問題に取り組む「インクルーシブインパクト」を提唱する。
山本晃弘
アエラスタイルマガジン エグゼクティブエディター
1963年生まれ。「メンズクラブ」「GQジャパン」などを経て、2008年「アエラスタイルマガジン」を創刊する。2019年に「ヤマモトカンパニー」設立、アエラスタイルマガジンweb編集長のほか、YouTubeチャンネル、服飾ジャーナリストとしても活躍している。
Text: Mitsuhide Sako