週末の過ごし方
神々しいまでに美しい「アマネム」と、
その土地ならではの伝統文化をたしなむ
「アマネムジャーニー」のすすめ。
2022.12.16
もうひとつ、アマンがリゾートを造るうえで大切にしていることがある。それは、その土地の歴史やライフスタイルを尊重し、関わりをもつことで地域を活性化させることだ。アマネムは、日本神話の主神・天照大御神を祭る伊勢神宮や、参詣道の熊野古道などの聖地に囲まれた希有な立地にある。「アマネムジャーニー」は、そうした旅先の風習や伝統文化を学び、理解するための体験プログラムだ。例えば、昔ながらのお伊勢参りを体験する「江戸時代のお伊勢参り」やベテランの海女さんと一緒に海に潜って伝統の海女漁を見学する「海女さんと海に潜る」。かつて伊勢神宮の参拝客が参詣した足跡をたどる「日本百景『朝熊岳』ハイキングと『金剛證寺』参拝」など、知的好奇心をくすぐるものが多い。
なかでも人気なのが、「伊勢神宮と御食国(みけつくに)を巡る食文化を知る」だ。御食国とは、皇室や朝廷に海産物を中心とした御食料を貢いだとされる地方のことで、アマネムのある伊勢志摩もそのひとつ。伊勢神宮の外宮では約1500年もの間、毎日朝夕の2回、神様に食事を奉納する「日別朝夕大御饌祭」が行われており、この体験プログラムでは、この神様へお供えされる食事に含まれる鮑、昆布、塩、鰹節などの食材にまつわる老舗各店を、ガイドと一緒に専用車で巡っていく。これらの食材は言わずもがな和食のうま味や出汁に欠かせないもので、御食を知ることは伊勢だけでなく日本の豊かな自然や食文化を見つめるきっかけにもなる。
伊勢の文化は「生なり」の文化と言われ、素材の良さを最大限に引き出すことを大切にしている。1912年創業の老舗店「酒徳昆布」も、おぼろ昆布やとろろ昆布など用途によって昆布の産地を厳選し、「漬前」と呼ばれる工程では創業以来伝わる秘伝の酢に漬ける時間やタイミングを厳格に管理。全ての工程において手間暇を惜しまないその職人たちは、まさに「生なり」の食文化の体現者である。酒徳昆布の見学はとりわけ外国からのお客さまからも人気で、もはや「ウマミ(うま味)」は世界共通語だという。
続いて、伊勢神宮の塩作りが行われる二見浦で作られる、「岩戸の塩」の工房へ。薪(まき)で炊いた釜に海水を注ぎ、徐々に水分を飛ばして最後は塩を焼くという原始的な方法で製造されている。海水のみを原料とし、添加物は一切使用しない。大変な労力がかかるわりに生産量が少ないが、その分良質なミネラルが豊富な塩ができあがるという。
その後は志摩の大王町波切に移動し、鰹いぶし小屋へ。鰹節を作る工程を見学し、最後においしい鰹節ご飯をいただき、再びアマネムへと戻る。御食国を巡るアマンジャーニーは、この土地での食材づくりへ一切の妥協を許さない、素晴らしき職人たちとの出会いの旅でもあった。アマンは外資系のホテルだが、立つ土地土地でジャーニーを通じて伝統文化をたしなむ機会を提供し、地域を活性化させている。本質を見極めた真のラグジュアリーホテルだからこそできる、ソーシャルグッドな旅がここにある。
そしていよいよ、アマネムジャーニーから戻った後は、アマネム滞在で最大の楽しみと言っても過言ではないダイニングでのディナーへ。古くは日本書紀に「美(うま)し国」と詠まれてきた伊勢。海、山、そして川からたっぷりの自然の恵みを受けた食材に腕を振るうのは、和食料理長の北原克敏さんで、例えば伊勢海老ひとつとっても、お造りから土瓶蒸し、ビスク、ポワレ、握り寿司、ブイヤベース、坦々麺など、多彩なアイデアでゲストを楽しませてくれる。ほかにも地元で水揚げされたアワビなどの魚介類や、日本が世界に誇るブランド牛「松阪牛」など、伊勢志摩ならではのグルメが丁寧な和食で楽しむことができる。アマネムジャーニーに参加したあとだけに、1500年以上受け継がれてきた御食国の豊かな食遺産に対して、ありがたみを感じずにはいられない。
帰京した今でも、余韻が続いているアマネムでの滞在。いつにも増して旅の記憶が鮮明なのは、ぜいたく三昧だったダイニングでの美食のせいか。それとも神々しいまでに美しいデザインのせいか。さらに印象的だった伊勢志摩、御食国との出合い……。いつになるかはわからないが、もし次にどこかアマンに泊まる機会があれば、またアマンジャーニーには必ず参加しようと心に決めている。
アマネム
〒517-0403 三重県志摩市浜島町迫子2165
0599-52-5000
https://www.aman.com/ja-jp/resorts/amanemu