週末の過ごし方

上白石萌歌さんがいざなう、東京“名建築/名作デザイン”散歩
第2回 The Okura Tokyo「オーキッドバー」

2023.03.24

上白石萌歌さんがいざなう、東京“名建築/名作デザイン”散歩<br>第2回 The Okura Tokyo「オーキッドバー」

身近にあるからこそ見落としがちですが、伝統的な文化や芸術など、日本にはまだまだ世界に誇れるものが数多く存在します。本連載では、“和のデザイン(意匠)”をキーワードに、俳優の上白石萌歌さんと一緒に都内のスポットを巡ります。主語が大きな「日本はすごい」ではなく、個々の職人さんや作家さんの卓越した技術とみずみずしい感性、そしてそこに流れる和の心を読み取れば、新たな発見と気付きが見つかるはずです。

今回は、連載第1回で紹介した「The Okura Tokyo」にある「オーキッドバー」にお邪魔します。昼間の玄関口が創業当時の趣を再現したロビーとするならば、ぜいたくな夜のひと時を堪能できるのがこちらのオーセンティックスタイルのバーです。早速、上白石さんと一緒に大人ならではの楽しみ方とたしなみ方を学ぶとしましょう。

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「お酒はすごく好きなのですが、『さぁ、今日は飲むぞ!』と重い腰を上げないと、なかなか外に飲みに行く機会は少ないですね。それに、実はまだビールや日本酒が飲めないので、普段は白ワインを飲むことが多いんです」

豪快磊落(ごうかいらいらく)な県民性を指す“ぼっけもん”という言葉があるように、鹿児島出身の上白石さんはお酒が強そうなイメージも。時には旅先で友達と連れ立ってバーに行くこともあるそうで、自分なりのスタイルでお酒との付き合い方を楽しんでいるようです。

今回、お伺いした「オーキッドバー」は1962年(昭和37年)にオープン。前身となるホテルオークラ東京の創業時から六十余年にわたりメインバーとして、数多くのゲストをもてなしてきました。オーキッド(蘭)を模った花形シェードの光が優しく照らす店内は、まさにオーセンティック然としたたたずまいで、背筋がピンと伸びるような格調高い雰囲気に包まれています。

なかでもひと際目を引くのが、カウンターに設けられた全13メートルにも及ぶ一枚板のカウンター。「神代ニレ」と呼ばれる希少な銘木を使用したもので、美しい飴色は火山灰などで自然にいぶされたもの。銅板を打ち出したテーブルやレザーを張り替えて使いつづけられているソファなど、オープン当初の什器を再利用するあたりは、サステイナビリティを重視する時流にも合致しています。また、日本で初めて「ドン・ペリニヨン」のグラスサービスを始めるなど、古くからの慣習にとらわれない柔軟さもまた、多くの人を引きつける理由なのかもしれません。

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撮影した時間帯はまだ日が高かったこともあり、「ノンアルコールドリンクはいかがですか?」と上白石さんに促すと、「お酒をいただいてもいいですかね(笑)」と笑顔で一蹴。豊富なドリンクメニューに目移りする彼女に、バーテンダーの永光さんがおすすめしてくれたのは、金柑を使った季節限定のオリジナルカクテル「シトラスブロッサム」です。宮崎産金柑の最高峰ブランド「きんかんたまたま」をぜいたくに2個半使ったジンベースの一杯は、カクテルをひと口飲んだら、添えられた金柑の実をかじることでより甘みや香りが楽しめるのだとか。

「これはすごくおいしいですね! 金柑をそのまま丸ごと裏ごしたような果実感もしっかりとあって、ジュースのようにすいすい飲めてしまいます」と、いたくご満悦の様子。カクテルと金柑の実をじっくりと交互に味わいながら、「あぁ。今日はなんていい日なんだー」と思わず漏らした(バイキング)小峠さんのような感嘆の言葉に周囲も大きな笑いに包まれます。

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ほどなくリラックスした雰囲気も手伝って、カウンター越しの永光さんにかねてから抱いていた素朴な疑問をぶつける上白石さん。

「よく映画のワンシーンで見るような『私をイメージしたカクテルを作って!』なんてオーダーも実際にあったりするんですか?」

われわれの想像の斜め上をいくチャーミングな質問でしたが、そこは百戦錬磨の永光さん。

「(笑)ごくたまにいらっしゃいますよ。そんなときは、ふとした会話のなかからお客さまの好みを引き出しつつ、例えば、その日お召しになっているお洋服から色をイメージしたカクテルを作ったりしますかね」

口をついて出る含蓄のある言葉のひとつひとつに、ベテランならではの余裕とプロの矜持がうかがえます。

「もし、上白石さんをイメージするとしたら、どんな一杯を作ってもらえますか?」という、こちらからの質問には「そうですね。さっぱりとした旬のフルーツをメインに使いながら、ややドライな後味に仕上げようかなと思います」

これまでおそらく、何千、何万ものお客さんをもてなしてきたであろう永光さん。酔客を相手にすることもあれば、ビジネスのシビアな交渉や政治家の密談など、緊迫感漂う場面に出合わしたことも幾度となくあったことでしょう。そんな人間観察にたけた永光さんが、あえて辛口に仕上げると答えたのも、上白石さんの芯となる部分に、凛(りん)とした強さを見いだしたと考えるのは早計でしょうか。

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六十余年の歴史を誇る「オーキッドバー」では、創業当時から足繁く通われているお客さんや親子2代でひいきにしてくれる方も多いとか。累計1万1000本を超えるボトルキープの数は、これまで大切に育まれてきた歴史の証左と言えるでしょう。なかには、娘さんが生まれた記念に新たなボトルをキープして、成人式のお祝いに親娘で訪れるのを心待ちにしている常連さんもいらっしゃるそうです。

「それはすごくすてきですね。私もぜひ、両親と一緒に来たいです。でもお酒が入ってしまうと、真剣な相談というより、お互いまともな会話にならないかもしれない(笑)。父親もお酒を飲むのが好きなので、いつかここに連れてくることができたら『私も随分大人になったんだな』と思えるかもしれないです」

そう、はにかむ彼女の後ろ姿越しに、親娘の仲むつまじい様子が浮かんで見えました。それにしても、熟練のバーテンダーさんと自然な会話を楽しみ、両親への感謝を素直に口にできる彼女は既に十分大人にも見えますが、「ご自身で大人になったなと思うことはありますか?」と尋ねると「行動範囲が広がったことですかね。以前も、その日の朝に急に思い立って、新幹線で長野までお蕎麦を食べに行ったこともありますよ」

年齢には見合わない思慮深さをそなえつつ、時に好奇心の赴くままアクティブに行動する上白石さん。そもそも子ども/大人という線引きすら意味を成さず、そのひとつひとつの経験が、俳優としてアーティストとしてさらなる成長につながっていることは間違いありません。

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〈上白石萌歌(かみしらいし・もか)〉
2000年2月28日生まれ。鹿児島県出身。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディション、グランプリ受賞をきっかけに芸能界入り。2018年、『羊と鋼の森』で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。近年の主な出演作に映画『子供はわかってあげない』(21/主演)、『アキラとあきら』(22)、ドラマ『金田一少年の事件簿』(22)、連続テレビ小説『ちむどんどん』(22)、ドラマ『警視庁アウトサイダー』(23)などがある。また、アーティスト名義adieu(アデュー)として音楽活動も行う。4月スタートの金曜ドラマ「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」(TBS系)に出演予定。

〈訪れた場所〉
オーキッドバー
オークラ東京の象徴であるオーキッド(蘭)の名を冠したメインバー。重厚な趣あふれる落ち着いた空間では、オリジナルブレンデッドモルトや生産が終了したウイスキーなどのオールドレアウイスキーをはじめ、季節限定のオリジナルカクテル(3月はブランドみかん「せとか」を使った2種類のカクテルを用意)、さらにノンアルコールドリンクまで豊富にそろう。なかでも、水っぽくならないよう、氷の抵抗を最小限に抑えたステア技術が光るシグネチャーカクテルの「マティーニ」や、ホテル伝統のコンソメとウオッカを合わせた「ブルショット」は名物のひとつ。

東京都港区虎ノ門2-10-4
オークラ東京 オークラ プレステージタワー5階
TEL:03-3505-6076(直通)
営業時間:15:00〜24:00
https://theokuratokyo.jp/dining/list/orchidbar/

シャツ ¥163,900、パンツ ¥141,900、カマーバンド ¥58,300、ベルト ¥68,200/すべてトッズ(トッズ ジャパン 0120-102-578)、リング ¥35,200/ブランイリス (ブランイリス トーキョー 03-6434-0210

<<<第1回 「The Okura Tokyo」はこちら

【お詫び】2023年3月24日(金)に発売されたアエラスタイルマガジン誌(vol.54)P.126のメインカットに、画像が歪んで印刷される不備がございました。読者の皆様、及び関係者にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。適正な画像は以下のページのTOPでご覧くださいませ。
https://asm.asahi.com/article/14861969

Photograph:Satoru Tada(Rooster)
Styling:Ami Michihata
Hair & Make-up:Maiko Inomata(TRON)
Text:Tetsuya Sato

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