週末の過ごし方
8打差逆転でツアー4勝目、30歳の青木瀬令奈が進化しつづける理由。
2023.03.24
2023年国内女子ゴルフツアーの第3戦Tポイント×ENEOS(鹿児島高牧CC)は今月19日、青木瀬令奈(リシャール・ミル)の逆転優勝で幕を閉じた。首位に4打差でスタートした最終日は、8バーディー、ボギーなしの64で通算17アンダー。3日間を通しても、ノーボギーと隙のない強さを発揮した。今年2月8日で30歳。若年化が進む女子プロゴルフ界で、青木は2021年から3年連続優勝でツアー4勝目と進化が止まらない。その理由とは?
最終18番パー4。青木は2メートルのパーパットも真ん中から沈めた。「ナイスパー!」「優勝、おめでとう」の歓声を受けると、ニコリと笑ってギャラリーに会釈。キャディーを務めた大西翔太コーチとは歓喜のハグを交わした。
この日は首位発進の上田桃子が、スタートの1番パー5から連続バーディーを奪った。一方の青木は4ホール連続パー、5番パー4で初バーディーの青木は、8打差をつけられていた。その後、上田がボギーをたたき、青木が2バーディーで前半終了時は5打差。後半は上田が崩れるなか、青木は淡々と5バーディーを奪い、同じ最終組での優勝争いに決着をつけた。
「(ゴルフは)最初にいいと、そのままいい 一日で終えることもありますが、優勝争いをしているとなかなかそうはいかない。桃子さんがいい滑り出しをしていましたが、『後半は厳しくなってくるかもしれないな』『私も後半伸ばせばチャンスはあるのかな』と諦めずにやった結果だと思います」
青木は7歳からクラブを握り、18歳でプロテスト合格。ゴルフの怖さを知り、幾度も優勝争いを重ねてきたからこそできた大逆転劇だった。
勝てた理由はほかにもある。自分のゴルフを知り尽くしていることだ。国内女子ツアーで若年化、パワー化が進むなか、青木のドライバー平均飛距離(ドライビングディスタンス)は、今季3戦を終えて214ヤードでツアー全体87位だ。この日もドライバーショットでは、同組の上田、稲見萌寧に約20~30ヤード後方に置いていかれたが、「私にとっては、3番ウッドまでがピンを狙うクラブ」と公言するとおり、第2打でフェアウェーウッド、ユーティリティーを使い、そのハンデをカバー。さらには1位の平均パット数(27.5455)と、3位のリカバリー率(78.3333%)を生かし、スコアを伸ばしつづけた。
「飛ばなくても勝てる」。それを実現するために、青木は年々ストイックになっている。きっかけは一昨年4月、調子が上がらない時期に「引退」を口にしたことだった。驚いた大西コーチは「持っているアプローチとパットの技術を軸に、やれる限りやるべきだ。要はどれだけゴルフに向き合えるかだ」と反対。その言葉で前向きになれた青木は、同6月の宮里藍サントリーレディスで約4年ぶり2勝目を飾った。しかし、満足することなく、「また勝ちたい」の思いで好きなゲーム、漫画、宝塚観劇を断った。そして、昨年7月の資生堂レディスで3勝目。オフもゴルフ漬けの日々を送っていたという。
「年々ゴルフのことが好きになっていきますし、ゴルフに対して向き合う時間だったり、私生活においても選択肢があればゴルフのためになるほうを選んでいます。数年前まではできていなかった部分なので、成長できていると思います。自分のプレースタイルをどういう心持ちで私生活を過ごしたらできるのか。私の場合は苦しい選択をしたほうがゴルフのためになる。等価交換ではないですけど、とことん我慢をし、何かを犠牲にして何かを得るというほうが、私にはプラスになると分かりました」
青木が自身を追い込みつづける理由は、強い若手たちが練習を休まないことを知っているからだろう。一昨年、賞金女王に輝いた稲見はオフの初日からクラブを握っている。昨季メルセデス・ランキング8位の菅沼菜々も「年間でゴルフをしない日は2日ぐらい」と話している。「休んでいたら、差をつけられる」。その現実から目をそらさず、自分ができること継続できる精神力と体力が、青木を進化させている。
今後の目標を聞かれた青木は「初めてのシーズン複数回優勝」と返した。だが、長期的な目標は別にある。「私は、ずっと不動裕理さんに憧れてきて、プロになってからは不動さんのように10億円を稼げるようになりたいと思ってきました」。青木は通算293試合出場で生涯獲得賞金は3億5096万7907円で歴代74位だが、1位の不動は476試合出場で13億7029万2382円。遠く険しい道のりになるが、青木は本気でその域を目指していく。