週末の過ごし方

上白石萌歌さんがいざなう、東京“名建築/名作デザイン”散歩
第1回 The Okura Tokyo

2023.03.17

上白石萌歌さんがいざなう、東京“名建築/名作デザイン”散歩<br> 第1回 The Okura Tokyo

“おもてなしの国”や“礼儀礼節を重んじる国民性”と、自分発信で喧伝されると、なんだかいぶかしみたくなる気持ちもありますが、こと日本の伝統的な文化や芸術に関しては、まだまだ世界に誇れるものが数多く存在します。そこで、“和のデザイン(意匠)”をキーワードに、俳優の上白石萌歌さんと一緒に都内の名建築やギャラリーなどを巡ります。主語が大きな「日本はすごい」ではなく、個々の職人さんや作家さんの卓越した技術とみずみずしい感性、そしてそこに流れる和の心を読み取れば、新たな発見と気付きが見つかるはずです。

連載第1回は、国際都市・東京の中心部にありながら、落ち着きのある雰囲気と洗練された上質さで国内外からのゲストに愛されるラグジュアリーホテル「The Okura Tokyo」(以下、オークラ東京)を紹介。継承された伝統美と日本の心が息づく名建築は、どのようなストーリーを宿しているのでしょうか。

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「足を踏み入れた瞬間、すごくラグジュアリーな気分に浸れますね。でも、どこか“わびさび”の素晴らしさも感じます。日々を過ごすなかで、こんなすてきな空間はなかなか味わえないですもんね」

俳優やアーティストとして活躍する一方、この春まで大学で芸術を学んでいた上白石さん。“フォービスム(野獣派)”を代表するフランスの画家、アンリ・マティスをこよなく愛し、美術館巡りが趣味だと語るようにアートや美術に関しては一家言を持っています。

「正直、建築はあまり詳しくないのですが……」と謙遜しつつ、「渡辺 仁さんが手がけた原美術館が大好きで、よく通っていました。エントランスのお屋敷感と美術館の緩やかな曲線がとても好きだったので、閉館(2021年閉館)してしまったのがとても残念です」と、淀みなく固有名詞が出てくるあたり、その博識ぶりは侮れません。

今回、初めて訪れたというオークラ東京も、そんな彼女の琴線に触れるものがあったよう。ホテルオークラ東京が53年間の歴史にいったん幕を下ろし、「The Okura Tokyo」として新たに開業したのが4年前。建築家・谷口吉郎氏が設計を手がけた本館ロビーの趣を現代に再現したのが、息子である谷口吉生氏。今回、施設内を案内してくださったホテルの広報担当の今野さんによると、建物を復元するにあたって集められた膨大なデータの調査報告書は「週刊マンガ雑誌をゆうに超える厚み」だったとか。

高度な技術を要する再利用や復元にあたっては当時と同じ工房に依頼するなど、完璧な復元がなされ、ホテルが創業以来大切にしてきた“日本の美と心”が盛り込まれたメインロビーは忠実に再現。上白石さんが「温故知新の素晴らしさですね」と思わず漏らしたのもうなずけます。

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パブリックスペースとして開かれたロビーには、梅の花に見立てたテーブルと椅子、切子玉がモチーフの数珠つなぎのランタン、人間国宝・富本憲吉氏デザインによる四弁花を立体的に表現した屏風型の壁面装飾など、“日本の美意識”が通底する意匠が多方に見て取れます。

圧巻は、壁面を飾る麻の葉文様の美術組子。釘や接着剤を一切使わずに組み上げられた精緻な細工は、パーツの幅をわずか数ミリ短くすることで、ロビーから見上げた際の立体感まで計算されているそうです。個々の意匠の素晴らしさもさることながら、押し付けがなく、心がじんわりと解きほぐされるような空間設計も出色。なんでも創業当時のまっさらな空間をそのまま再現するのではなく、そこから十数年の時を経て往来する人々の空気感が醸成された経年変化までも意識的に作り上げたというのには、本当に驚かされました。

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上白石さんもソファーに腰を下ろし、周囲にちりばめられた優美な意匠にじっくりと目を凝らします。

「空間自体が広いので、ほかの人を気にせず、思い思いの時間を過ごせそうですね。それに、ここではスマホやデジタルデバイスを見ることも一切なくなる気がします。完全にオフな気持ちに切り替わるというか」

上白石さんがそう感じたのは無理もありません。スキマを絵画や調度品で装飾するのではなく、上の階へと続く緩やかな階段やガラスで仕切られたサロンスペースも含めて、視線を遮るものがまるでない開放的な空間は、先述した膨大な資料を基に、谷口吉生氏の設計により復元、追加されたもの。

娯楽やエンタメですら、無駄を省いて効率よく消費する“タイパ(タイムパフォーマンス)”が重視される現代。レコードと古書を愛する彼女は、利便性だけでは測れないぜいたくな時間の過ごし方をきっと知っているのでしょう。

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撮影後に「何か印象に残った意匠はありましたか?」との問いには、意外にも梅の花のテーブルと椅子という答えが。ガイド役の今野さんから、入社したスタッフがいちばん最初に任される仕事というのが、テーブルをキレイに保つことだと聞いた上白石さん。

「ピカピカに磨き上げられたテーブルを見ると、こうやって伝統が培われていくんだなとすごく感激しました」

豪奢(ごうしゃ)なしつらえや優れた技巧が光るディテールではなく、そこで働く人たちの矜持やゲストへの気配りに目を向けるあたりが、実に“らしさ”を感じさせます。

ちなみに、撮影当日は暦の上で吉日にあたる「先勝」の土曜日とあって、披露宴を挙げる花嫁さんがロビーで記念撮影を行うほほ笑ましい姿も。インタビュー中、それを偶然目にした上白石さん。遠くから「おめでとうございます」と静かに声をかけ、丁寧にお辞儀をする姿はまさに彼女の人となりがうかがえる1シーンでした。

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〈上白石萌歌(かみしらいし・もか)〉
2000年2月28日生まれ。鹿児島県出身。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディション、グランプリ受賞をきっかけに芸能界入り。2018年、『羊と鋼の森』で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。近年の主な出演作に映画『子供はわかってあげない』(21/主演)、『アキラとあきら』(22)、ドラマ『金田一少年の事件簿』(22)、連続テレビ小説『ちむどんどん』(22)、ドラマ『警視庁アウトサイダー』(23)などがある。また、アーティスト名義adieu(アデュー)として音楽活動も行う。4月スタートの金曜ドラマ「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」(TBS系)に出演予定。

〈訪れた場所〉
The Okura Tokyo
創業者である大倉喜七郎氏の「世界の一流ホテルに並ぶ格式と心地よさをそなえる、日本らしいホテルをつくりたい」という思いを原点に、1962年(昭和37年)に前身となるホテルオークラ東京が創業。世界中のゲストに愛された本館のメインロビーなどを忠実に再現する形で建て替えを行い、2019年にThe Okura Tokyoとして新たに開業した。オーセンティックホテル「オークラ ヘリテージ」と都市型のコンテンポラリーホテル「オークラ プレステージ」という2つのブランドで構成されており、歴代のアメリカ大統領をはじめとする各国の主賓、芸術、文化、スポーツ界などのVIPが訪れる、日本を代表するラグジュアリーホテルである。

東京都港区虎ノ門2-10-4
TEL:03-3582-0111
https://theokuratokyo.jp

シャツ ¥163,900、パンツ ¥141,900、カマーバンド ¥58,300、ベルト ¥68,200/すべてトッズトッズ ジャパン0120-102-578、リング ¥35,200/ブランイリスブランイリス トーキョー03-6434-0210

<<<第2回 The Okura Tokyo「オーキッドバー」はこちら

【お詫び】2023年3月24日(金)に発売されたアエラスタイルマガジン誌(vol.54)P.126のメインカットに、画像が歪んで印刷される不備がございました。読者の皆様、及び関係者にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。適正な画像は本記事のTOPでご覧くださいませ。

Photograph:Satoru Tada(Rooster)
Styling:Ami Michihata
Hair & Make-up:Maiko Inomata(TRON)
Text:Tetsuya Sato

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