特別インタビュー

株式会社Voicy 代表取締役CEO
緒方憲太郎 インタビュー[前編]
[ニッポンの社長、イマを斬る。]

2023.04.03

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国内最大級の音声メディアを運営する株式会社ボイシー。35歳で起業した緒方憲太郎代表取締役CEOの座右の銘は「道に迷えばオモロイ方へ」だ。その紆余曲折と同社のこれからを語ってもらった。

五感のひとつである聴覚市場を総取りせよ!

渋谷駅南口の先、ボイシーはスタートアップ企業ひしめくかいわいにある。音声プラットフォームを運営する同社のテーマは『声で、未来を変える。』こと。数年前まで誰も注目していなかったメディアには倍々ゲームのごとく人が集まり活況を呈している。

「2016年の創業当時、声の業界で勝負するビジネスはまだありませんでした。ということは、五感のひとつである聴覚市場を全取りできるチャンスじゃないかって。スマホ以来の大革命になると考えたんです」と代表取締役CEOの緒方憲太郎氏は語る。

当初は「今さら音声?」とネガティブな反応ばかりで資金調達もうまくいかず、再生数は伸び悩んだ。潮目が変わったのは「声のブログ」としてインフルエンサーに注目され、登録者数が一気に30倍になった頃合いか。ボイシーは現在1600チャンネル以上を展開するが、パーソナリティーの応募通過率5%前後という狭き門でもある。

「声というのは動画やテキスト作成よりも手間がかからず、忙しい人でも発信しやすい。一方で、聴く側は家事や朝食時など『ながら聴き』で新しい情報に触れられる。耳の可処分時間は目の3倍以上もありますし、僕らが今取り組んでいることは構想のほんの一部。社会に対して全力でイタズラしている感じですね」と言って笑う。

仕事は生命維持だと考えていた20代の頃

緒方のキャリアは公認会計士から始まった。さまざまな企業を見たくて選んだ職業ではあったものの仕事以上の意味を感じることはなかった。

「今も昔も人を喜ばせるのは大好きです。『好きなこと』を始めたら止まらなくなる人間でもある。だけど、20 代の頃はその『好きなこと』が仕事の中にあるとは思いもしなかった。仕事はあくまで生命維持のためだと考えていたんですね」

一方で、精力的な面は当時からうかがえる。29歳で休職し海外30カ国を放浪した。帰り道のニュー
ヨーク、大手監査法人の看板が目に入る。自身が勤めていた会社の系列でもあった。話を聞きたいな、興味の湧くまま門をたたき、なんとそのままローカル採用されてしまった。「英語は全然できなかったんですけどマンハッタンで働いた経験があるというだけでも人生、面白くなりそうじゃないですか(笑)。『道に迷えばオモロイ方へ』が座右の銘なんですよ」

業務自体は日本にいるときとそう変わらなかった。一定のルールに従って早く正しくチェックする。そこに個性が入る余地はない。「仕事は生命維持だ」と自身に言い聞かせ、プライベートの方で医療系NPOを立ち上げるなど持てる情熱をぶつけた。そんなある日、日本のスタートアップ支援会社から「うちに来ない?」と誘われた。緒方の人となりやオフでの活動を見てのことだった。

「帰国に向けて日本のコンサル企業と連絡を取り合っていた時期でもありました。自分の市場価値がどれくらいかの興味もあって(笑)。条件は決して悪くなかったんですけど、このときも『道に迷えばオモロイ方へ』という観点からスタートアップ支援を選びました。結局、ロジカルに考えたら面白くない方に行ってしまうんです。将来の不安だったり、課題解決の側面ばかりで物事を見ると『自分の人生、幸せだった』って言えるような生涯にはならないんじゃないかって」

さて、面白そうな方の選択が人生を変えた。

聴覚を使う市場はガラ空きだった

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緒方はスタートアップ支援で300社以上の企業を見た。事業の穴を指摘し、資金調達の相談を受け経営者の背中をたたき、起業家たちの折れそうなメンタルに寄り添った。「突然プロ野球のコーチになったようなもの」だったが、サポートした企業は不思議なほど伸びていった。

「仕事が面白いって本当にあるんだと衝撃を受けましたね。大変なことばかりでしたが、みんな楽しそうに働いていたんです。このときの体験が自分の原点になったと思いますし、ハッピーな組織作りについても考えさせられました。後の起業にもつながっています」

ともあれ、緒方を指名する声は増えた。顧客に「今までで一番良かった」とも言われた。

それこそ学生時代の家庭教師アルバイトに始まり「今までで一番良かった」は緒方殺しのフレーズでもあった。

「それはもう、めちゃくちゃうれしいわけですよ。それまでの僕は自分一人が頑張ったところで社会は変わるわけがないと思っていたんです。だけど、AI以前の時代にAI事業を始めたり、ビットコインがない時代にビットコインを始める企業と並走するうち考え方も変わりました。ああ、そうか、社会って実は動かせるんだ、むしろ、サボってなんかいたら社会の成長を止める可能性だってあるんじゃないかって」

起業を構想するようになったのは自然な流れだった。たくさんのスタートアップを見てきた経験から培われた直感もあった。既存市場の隙間を狙ってあわよくば、といったスタートアップは長持ちしない。一方で、「誰もやったことのないマーケット」「誰もやっていないソリューション」にこだわった会社は化けた。「パイを奪い合うのではなく、新しい産業、新しい価値、新しい文化を作りたかった」と緒方は言う。音声メディアに着目したのは自身の父がアナ
ウンサーという背景もあったが、その「声の世界」は市場としてもガラ空きだった。

「情報って目と耳から得ますよね。視覚で言えば、テキストとか写真とか動画はオンライン上にあふれている。一方で、聴覚にフォーカスしたものはほとんどない。みんなが当たり前にやっている『しゃべる』がオンラインで足りていない。スケールの大きいビジネスになる予感があったんですね。五感のうちのひとつ、耳の世界を総取りできるんじゃないかって」

インタビュー後編はこちらから>>

プロフィル
緒方憲太郎
大阪大学基礎工学部卒業後、大阪大学経済学部卒業。2006年、新日本監査法人で公認会計士としてキャリアをスタート。Ernst&Youngニューヨークでの現地勤務を経て、トーマツベンチャーサポートにてスタートアップ支援。15年、医療ゲノム検査事業のテーラーメッド株式会社を創業、3年後に事業売却。16年、株式会社Voicyを創業した。著作に『新時代の話す力』(ダイヤモンド社)、『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』(日本経済新聞出版)がある。

「アエラスタイルマガジンVOL.54 SPRING/SUMMER 2023」より転載

Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima

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