週末の過ごし方
進化しつづける女子ゴルフの20歳の岩井ツインズ、
夢の姉妹優勝争いに現実味。
2023.04.14
2023年国内女子ゴルフツアーの第6戦富士フイルム・スタジオアリス女子オープン(兵庫・花屋敷GCよかわコース)は今月9日、山下美夢有(やました・みゆう)の今季初勝利で幕を閉じた。2位の岩井千怜(いわい・ちさと)は最終18番パー4でボギーを打ち、山下に1打及ばなかった。だが、ルーキーイヤーの昨季に2勝した20歳は、今季も双子の姉明愛(あきえ)と共に存在感を示している。
山下が短いウィニングパットを決めると、千怜はニコリと笑ってハグで勝者をたたえた。「おめでとうございます」。千怜の応援でグリーン脇にいた明愛も山下を祝福し、千怜には「お疲れ」と声を掛けた。
17番パー4を終えた時点では、9アンダーで千怜と山下が並んでいた。だが、18番の2打目で明暗が分かれた。山下がピン下1.5メートルにつけたのに対し、千怜が放ったボールは高い弾道でガードバンカーに落ち、「目玉」(ボールの一部が砂に埋まった状態)になった。第3打はバンカーから出すのがやっとで、5ヤード手前からパターでヒットした第4打はカップの左横に止まった。
悔しくないはずはない。だが、千怜は潔く負けを認め、淡々と山下からの「学び」を口にした。
「(山下は)めっちゃ、強かったです。強いというか、隙がないというか。状況とかがわかりつつ、狙うところは狙って、組み立てがすごいです」
そして、「でも次があるし、この悔しさを次の試合で絶対に生かすというか、 つなげようという思いで今は切り替えています。この位置で戦えるっていうのは、『すごく楽しいこと』だという実感もありました」と言い、前を向いた。
確かに翌週には次戦が待っている。岩井姉妹には、それ自体がうれしい。理由は2021年12月、そろってツアー最終予選会(QT)に失敗し、1年前の今頃は年間8試合に限られた主催者推薦での試合出場を求める状況だったからだ。しかし、22年前半戦はその貴重な出場機会を生かして共にポイントをゲット。リランキングで後半戦の出場権を獲得し、千怜は8月に史上3人目の初優勝から2連勝を最年少で達成した。メルセデス・ランキング(MR)は15位でシード権獲得。明愛もシーズン終盤の富士通レディースで2位に入るなどし、MR40位でツアー史上初の姉妹同時シード権獲得を決めた。
迎えた今季。明愛は「初優勝」、千怜は「3勝目」を狙っているが、20年6月の最終プロテスト同時合格を決めたときからの目標がある。「ふたりでの優勝争い」だ。
今季6戦を振り返ると、第1戦~4戦は明愛が6位、10位、12位、25位で初優勝のチャンスもあった。一方、千怜は予選落ち、18位、39位、予選落ち。第5戦は明愛が予選落ちで、千怜が13位だった。そして、降雨で2日間短縮競技となった第6戦は、千怜が首位に1打差の2位、明愛が5打差の24位に最終日を迎え、関係者、ファンも「初めての姉妹優勝争いが見られるかもしれない」と期待をしていた。
だが、明愛がスタート1番パー4でダブルボギー。早々と逆転優勝は難しくなったが、千怜は自分のプレーに徹し、頂点だけを目指しつづけた。そして、先にラウンドを終えた明愛はギャラリーになって千怜を見守った。幼少期から同じ道を歩み、どんな選手よりも「応援したい存在」になっているからだ。
現実に明愛は昨季、千怜が初優勝を飾ったときに涙を流し、「うれしい」と言った。2連勝を目の当たりにした際は「メンタルがすごい」と驚きつつ、「千怜ができるなら、自分も、という思いです」と前を向いた。その後、苦手にしているパットを磨き、終盤の好成績につなげた。
千怜も明愛から影響を受けている。高校時代は明愛のほうが戦績で上回り、アグレッシブなプレーが目を引いていた。積極的に筋力トレーニングに取り組み、軽く振ってもドライバーで250ヤード超の飛距離を持ち合わせた。逆に千怜は慎重にプレーするタイプで、パワーも明愛に劣っていた。しかし、プロ転向と同時にマインドを変え、果敢に攻めるプレーをたびたび披露。明愛に負けじとトレーニングに取り組み、今季のドライバー飛距離は251.91ヤードで、昨季の246.61ヤードから約5ヤード伸ばしている。
オフの間も練習を休まず、切磋琢磨(せっさたくま)してきたふたり。年々、レベルアップするツアーで存在感を示すだけでなく、関係者が「人としてしっかりしている」と声をそろえるほど人柄の評判もいい。苦しい状況でもプレー中の笑顔を忘れず、ファンの声援にも応えている。
そんな姉妹は、優勝争いをイメージして同じことを言ったことがある。「できれば最終日に同じ組で回って、最後まで争いながらお互いを応援して、どっちが勝っても『お疲れ』『おめでとう』と声を掛け合いたいです」。両親からスポーツマンシップの大切さを教えられてきた明愛と千怜。ふたりは、遠くない将来にこの光景を実現させることだろう。