腕時計
【Louis Vuitton】
Watchmakers' Philosophy
ブランドの顔は時計師にあり。
2023.04.17
われわれと同じ時代の空気を呼吸している、リヴィング・レジェンドと呼ぶにふさわしい時計師の手による時計からは、彼らの哲学や手触りが伝わってくる。ウォッチジャーナリスト、まつあみ靖が、彼らと出会った際の肉声と共に、その深遠な世界をナビゲート。
クラシックをリスペクトした先進的機構
ルイ・ヴィトンのハイ・ウォッチ・メイキングの要と言うべきアトリエがある。その名はラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン。最高責任者である時計師ミシェル・ナバスは、数々の有力ブランドでキャリアを重ねてきた。
「80年代半ばに、世界初のトゥールビヨン腕時計も手掛けました」
2011年に来日した彼にインタビューした際、誇らしげにそう語っていたことを思い出す。
04年、彼は2人の辣腕(らつわん)時計師エンリコ・バルバシーニ、マティアス・ビュッテと共に、各人の頭文字をとった「BNBコンセプト」という、ハイエンド・ムーブメントのファクトリーを設立。トゥールビヨンやリピーターはもちろん、約1カ月ものロングパワーリザーブなどの超絶機構を発表し注目の的に。しかし方向性の違いから、ナバスとバルバシーニはBNBを離れ、07年新たにラ・ファブリク・デュ・タンをジュネーブに設立する。
「クレイジーな複雑機構も手掛けましたが、クラシックをリスペクトしながら先進的な複雑機構に取り組みたいと思ったのです」
そんなラ・ファブリク・デュ・タンが開発したムーブメントを搭載した「タンブール・スピン・タイム」を、ルイ・ヴィトンが発表したのは09年。アワーマーカーがキューブ状の立体になっており、それが60分おきに反転して時を示す独創的な機構がセンセーションを巻き起こした。この成功をきっかけとして、この実力派アトリエと名門メゾンとは親密度を深め、11年にはルイ・ヴィトン傘下に。14年にはジュネーブ郊外のメイランの地に最新鋭のファクトリーも完成した。
現在もアイコン的な機構として進化を続けている「スピン・タイム」をはじめ、ルイ・ヴィトンの独創的なモデルを目にするにつけ、ナバスが口にした言葉を思い出す。クラシックをリスペクトした先進的複雑機構──ルイ・ヴィトンという最高の舞台と出合い、ミシェル・ナバスは、その創造性を存分に発揮しつづけている。
Text: Yasushi Matsuami
Illustration: Mai Endo
Edit: Mitsuhide Sako(KATANA)