腕時計
【Parmigiani Fleurier】
Watchmakers' Philosophy
ブランドの顔は時計師にあり。
2023.04.24
われわれと同じ時代の空気を呼吸している、リヴィング・レジェンドと呼ぶにふさわしい時計師の手による時計からは、彼らの哲学や手触りが伝わってくる。ウォッチジャーナリスト、まつあみ靖が、彼らと出会った際の肉声と共に、その深遠な世界をナビゲート。
過去の時計への敬意を形にしながら
スイス時計産業の拠点のひとつである山村フルリエの地に、ミシェル・パルミジャーニの工房を訪ねたとき、彼が「神の手を持つ時計師」と呼ばれる理由の一端を垣間見た思いがした。彼のキャリアは修復からスタートしている。ファベルジェがロシア皇帝の依頼で製作したオートマタを仕込んだインペリアル・イースターエッグや、ブレゲのシンパティック・クロックなどの歴史的名品のレストアでその実力を認められる。アトリエを訪ねたときには、修復中の「シンギングバード」がつられていた。籠の中の鳥が羽ばたき、さえずるオートマタに加え、籠の底面にも時計を備えたこの逸品を指差しながら「ジャケ・ドローの作品だろうと思われます」と彼は説明した。その言葉に、往年の天才と対話しながら、こうした名機を修復できる唯一無二の存在である静かなプライドがにじんでいた。
彼の腕を見込んだのは、スイスのノバルティス製薬グループの創業者一族で、世界有数の財閥サンド・ファミリーの財団だった。同財団が所有する時計やオートマタの修復・管理を彼に一任。そして1996年には、同財団の全面的なバックアップの下、ウォッチブランド、パルミジャーニ・フルリエがスタートする。機構に対するこだわりは言わずもがな、ギリシア建築や黄金比に想を求めた外装から、伝統的で繊細な仕上げに至るまで、完璧を期した作風や、真摯(しんし)な製作スタンスが支持を集める。
17年に来日した彼にインタビューした際の言葉も印象深い。
「若い時計師たちは技術的なことばかりを重視しがちですが、大切なのは、過去の時計に対する謙虚さ、歴史から学ぶ謙虚さなのです」
21年初頭、パルミジャーニ・フルリエは、ブルガリで時計部門の指揮を執っていたグイド・テレーニをCEOに迎え、スポーティーなブレスレットタイプの「トンダPF」を発表すると、たちまち人気モデルとなる。パルミジャーニらしい主張を抑えた謙虚さ、それがいわゆる“ラグスポ”モデルとは一線を画す魅力を醸成している。
Text: Yasushi Matsuami
Illustration: Mai Endo
Edit: Mitsuhide Sako(KATANA)