週末の過ごし方
AI時代の新たなビジネススキル「結び」の技法。
2023.04.21
ChatGPTに質問すればスプレッドシートに入れるべき関数を教えてくれるとは、なんとラクなんだろう。AIと一緒に働くことで「労働コストが減らせる」と実感する人も多い。一方で、米国の調査会社が発表した2023年の「世界10大リスク」(※注)は、AIを「大混乱生成兵器」として3位に格付けした。人工知能が生成するリアルな画像・動画・文章が指数関数的に増えることで、人々が事実とフィクションを区別できなくなり社会の中の信頼が崩れるというのだ。当たり前だが、AIが人を騙すわけではない。AIという道具をどのように作り・使うのか? 人の情報コントロールが問われているのだ。
日本人は「結び」の技法を通じて、見えない情報をコントロールしてきた。例えば、しめ縄。内と外を分けて神域の清浄を守る結界として働きながら、神を迎え入れる機能も持つ。今でも冠婚葬祭で使われる水引は、進物を包んだ上にかけ結ぶものとして約束事がある。婚礼や全快の祝いは一度きりになるように「結び切り」の形にするため、二度と解けない。
「結び」を研究していた額田巌氏(工学者)によると、2つ以上の物を1つにまとめる技が「結び」だという。矢が1本あるよりも2本のほうが強いはずだが、2本の矢がバラバラにあっても役に立たない。2本の矢が1つの思想で結ばれて統合すれば、飛躍的な進化が生まれる。弓にひもを結んで張ることで、狩りが発展した。弦を弾いて美しい音楽を奏でることもできる。複雑で美しい花結びを目印に、誰が結んだかわかるようにすることもできる。結びの結節点を上下左右に広げれば、全てを包み込む網ができ上がる。「結び」の技は数学的なルールに基づき、多様な形と機能を持つ。日本人はこの不思議に、霊魂の息吹が吹き込まれたり消滅していく生命エネルギーを見ていた。現代では生命とは情報が結びついた結果であることが判明している。うまく「結び」が作れる人は、AIをも生命の営みに活かす情報コントロールにたけた人なのだ。
(※注)米国の調査会社ユーラシア・グループが2023年1月3日に発表した2023年の「世界の10大リスク」
Photograph: Ryohei Oizumi
Styling: Hidetoshi Nakato(TABLE ROCK.STUDIO)
Text: Sayaka Umezawa(KAFUN INC./MOIKA GALLERY)