腕時計
【F.P.Journe】
Watchmakers' Philosophy
ブランドの顔は時計師にあり。
2023.05.01
われわれと同じ時代の空気を呼吸している、リヴィング・レジェンドと呼ぶにふさわしい時計師の手による時計からは、彼らの哲学や手触りが伝わってくる。ウォッチジャーナリスト、まつあみ靖が、彼らと出会った際の肉声と共に、その深遠な世界をナビゲート。
史上初のレゾナンス腕時計の開発者
出身地のマルセイユでは悪童で通っていた。地元の時計学校を退学処分となり、やむなく預けられたパリの叔父の時計工房でその才能が開花するとは、少年時代の彼を知る誰が想像しただろう?
フランソワ‒ポール・ジュルヌが、技術継承が途絶えていたトゥールビヨン懐中時計の製作に独学で取り組みはじめたのは20歳のとき。5年を費やし、1982年に完成を見ると、たちまち愛好家の間で評判を呼び、複雑機構モデルの注文が舞い込みはじめる。87年には卓越した独立時計師の組織であるアカデミーのメンバーに迎えられ、99年に自身の名を冠したF.P.ジュルヌをジュネーブに設立する。
トルクを一定に保つルモントワール機構を組み込んだ『トゥールビヨン・スヴラン』、100分の1秒計測が可能な『サンティグラフ・スヴラン』、18もの複雑機構を搭載した天文腕時計『アストロノミック・スヴラン』などなど、独創的な複雑機構への情熱は他の追随を許さない。なかでもレゾナンスという機構は、ジュルヌを象徴するものと言って差し支えないだろう。2つのテンプと時刻表示を備え、テンプ同士の共振現象を利用し、精度を高めるものだ。18世紀の時計師、アンティード・ジャンヴィエが開発したと伝えられ、現存する3台のうちのひとつが、F.P.ジュルヌの所蔵となっている。
「パリ工芸博物館の歴史的な時計の管理に携わっていたことがあります。そのなかにブレゲ作とされる共振時計もありました。おそらくブレゲの依頼でジャンヴィエが製作したと思われます。80年初頭、この時計の修復依頼を受け、これ通じて共振時計の論文も発表しました」
そしてレゾナンス機構の小型化を実現し、史上初のレゾナンス腕時計製作者の栄誉を彼は手にする。
一度、創造の原動力はなにか? と直球の質問を向けたことがある。
「そうね、食べることかな(笑)」
気難しそうに見えながら、子ども時代からの茶目っ気や人を驚かせたいという思いを忘れていない。それも彼のクリエーションを魅力的たらしめている。
Text: Yasushi Matsuami
Illustration: Mai Endo
Edit: Mitsuhide Sako(KATANA)