特別インタビュー

マセラティは文化である。
本国CEOが考えるブランド力とは?

2023.05.17

マセラティは文化である。<br>本国CEOが考えるブランド力とは?

自動車においても、長い歴史をもつブランドは、文化と結びつくこともある。いい例が、マセラティ。

自動車に強い興味がないひとも、「マセラティ」と口にするだけで、古典的な美術やファッションや食事など、イタリアにまつわるあれこれを思い浮かべることがあるのでは。

なにしろ、1914年にマセラティ兄弟の手で、ボローニャに設立され、レースでの優秀な成績で世界的な名声を獲得したメーカーである。エンブレムはネプチューンの持つ三叉の鉾(ほこ)。

昨今、動力源がバッテリーとモーターというクルマを手がけるスタートアップが増えている。それはそれで興味深いけれど、たとえば「テスラ」と口にしても、製品のほかには何も浮かんでこない。

はっきり言って、一時期のマセラティは、意余って力足らず、というところがあった。スタイリッシュ、速い、でも壊れる、とか。

特に80年代のクーペは、現在でも姿はとても魅力的だけれど、いざ乗るには、エンジン、ギアボックス、ディファンレンシャルギア、電気系統に不安がありすぎて、思い切れない。

信頼性を取り戻し、同時に、スピードとスタイルとラグジュアリーというマセラティをマセラティたらしめていた要素をしっかり確立したのが、現在のラインアップだ。

フォーミュラ1由来の技術を使ったエンジン「ネットゥーノ」を搭載したモデルを手がける一方、500馬力のピュア電気自動車「グレカーレ・フォルゴーレ」も発表した。

次の100年(200年かも)への布石を着々と打っている印象が強い。マセラティの“いまと“これからは、過去よりもさらに興味深いではないか。

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ステランティスのカルロス・タバレスCEO(右)とともに(クルマはEVのグレカーレ・フォルゴーレ)。

そんななか、20234月下旬に、マセラティのダビデ・グラッソCEOが来日した。ごく短い時間だったけれど、インタビューで、いくつかの質問に答えてもらった。

――服が自分の表現手段であるように、クルマ選びも自己表現だと思います。マセラティは、どのような自己表現になるのか、CEOとしての考えを教えてください。

「マセラティというブランドの核はまさに自己表現の手段であることです。私たちの製品は、万人のために作られているわけではありません。選択自体が意味のあることなのです」

――あえて希少性を狙っているわけでない。

「イタリアならではの性能やラグジュアリーさ。それを評価する人には、最高の製品なのです。私が見る限り、日本の顧客は、イタリアのファッション、ラグジュアリー、文化をよく理解している。なので、日本の市場は、私たちにとって重要なのです」

――ファッションをはじめ、旅や読書は人生を豊かにしてくれます。マセラティ車からも同様の“いい経験が得られるとお考えですか。

「最大のものは、移動の自由でしょう。マセラティに乗ることで、その時間がさらに豊かになる。時代と共に変化する顧客の嗜好を考えながら、私たちのブランドが常に追求しているのは、その喜びを提供することです」

――たとえば、どういうことでしょうか。

「五感に訴えかける製品づくりです。味覚だけは別ですが(少し笑)、内外のデザイン、乗り込んだときの香り、シートやスイッチの手触りや操縦感覚、それに音」

――マセラティ車が背後から来るだけで、乾いたミドルノートの排気音で、振り返らなくても、マセラティとわかりますね。

「私たちは、車内で聞こえる音も“作曲”しています。ご存じでしょうか。著名なイタリアの音楽家、ダリオ・ファイニ(Dario Faini)、またの名をダーダスト(Dardust)に音作りを依頼しています」

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マセラティMSGレーシングのチェアマン/プリンシパルオーナーのスコット・スウィッド氏(左)とともに。

――自動車について語るとき、ある種の“勉強が必要と考える人がいます。マセラティだったら、戦前から50年代にかけてグランプリをはじめとするレースでの活躍や、戦後の優れたGTの数々といったモデルの歴史を知ることも重要とか。

「優れた製品は、アート(技術)とデザインによるものですし、私たちは頭と心を使ってブランドを理解します。メーカーとして常に意識しているのは、自分たちの存在理由を理解すること、それに顧客を理解することです」

――マセラティはすでに揺るぎないブランド価値を確立しているのではないでしょうか。

「あちらからこっちに来てくれるとは思うな、ということです。市場は世界的に均質化の傾向にありますし、オーナーのプロファイルも、25歳から60歳とかなり広範囲ですが、嗜好には近いものがあります。とはいえ、購買の背景にある行動原理は常に把握していなくてはなりません。市場調査が、モノづくりの科学的な領域、その先にあるのが芸術的な領域ですね」

――納得できる製品ができたら、その存在を告知しなくてはいけない。それがマーケティングの基本ですね。

「私たちは、美しく、性能が高く、ラグジュアリーなクルマを作っています。マセラティに乗ることはすばらしい体験になると、顧客を説得しなくてはならないのです」

――最新のマセラティ車のラインアップは「グレカーレ」「グラントゥーリズモ」、それにスポーツカーの「MC20」と「MC20チェロ」と豊富ですが、それぞれが顧客の期待に応える内容であると?

「最新のSUV、グレカーレを例にとっても、内側からデザインされた、つまり前後席乗員のための空間を最優先で作られたクルマであり、乗ってみれば、すべての点において満足いく出来だと納得してもらえると思っています」

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Davide Grasso(ダビデ・グラッソ)
マセラティのブランドチーフエグゼクティブオフィサー(CEO)。2019年にマセラティのチーフオペレーティングオフィサー(COO)に任命され、営業と財務を担当。2021年に現職に就任。以前は、ナイキのチーフマーケティングオフィサー、コンバースのCEOなど、グローバルブランドで豊富な経験を持つ。

Photograph: Masahiro Okamura (CROSSOVER Inc.)
Text: Fumio Ogawa

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