週末の過ごし方

ベトナムとの記念すべき年に
美しい橋をかける日本人
【センスの因数分解】

2023.05.29

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安藤彩英子さんによるキービジュアル。オペラは日本公演も計画中だ。https://anio-opera.jp/ 提供/「アニオー姫」実行委員会

今年、2023年は日本とベトナムの外交関係樹立50周年。この記念すべき年に、両国を舞台にした新作オペラ『アニオー姫』が誕生します。9月にベトナムの首都・ハノイにあるオペラハウスにて初上演されるこの公演には、ベトナムに魅せられたふたりの日本人が深い関わりを持っています。

『アニオー姫』は、江戸初期・元和の時代、御朱印船の船長だった荒木宗太郎と当時、広南国と呼ばれたベトナムのアニオー姫の恋物語で、日越のオペラ歌手がベトナム国立交響楽団と共演します。このベトナム国立交響楽団のマエストロ・音楽監督兼首席指揮者に就任しているのが、本名徹次さんです。

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©Pham Truong Son
ハノイのオペラ座を拠点とする本名徹次ベトナム国立交響楽団音楽監督。18年の45周年記念東京公演では、当時の天皇皇后両陛下の前でタクトを振った。

「日越外交関係樹立50周年に何をしましょうか。山田滝雄大使よりそうお話をいただいたのが大使が着任されて間もない3年ほど前のことになります。文化に大変造詣が深い方で、その後ほどなくして、アニオー姫のオペラにしようとまとまりました」

山田大使は、プロジェクトを「日越フィフティ・フィフティでやりましょう」とマエストロに伝えたと言います。その言葉どおり、音楽監督である彼と伴走する作曲者はベトナム人のチャン・マィン・フンさん、主役のアニオー姫はベトナム人のプリマドンナ、荒木宗太郎は日本のテノール歌手とキャストもそれぞれの国から出演することが決定。17世紀のドラマチックな物語をオペラにするにあたって、日越双方の歴史家による裏付けも行うなど、双方の協力のもと初演に向けて進行中です。

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世界遺産の古都ホイアンを拠点にする安藤彩英子さんは95年に一人旅で訪れたハノイでソンマイに出合い、画家の道を歩むことに。

このオペラのアイコンとなっているビジュアルは、ベトナム漆で描かれたもの。漆はベトナムでは絵画に使われることが多く「ソンマイ」と言われています。ソンマイによるアニオー姫のキービジュアルは、ベトナム在住の漆画家・安藤彩英子さんが手がけています。

「50周年を記念して生まれる新作オペラを、楽しみにしていましたが、まさか自分がこういう形で関わることになるとは思ってもいませんでした。当初は私にラブストーリーのビジュアルが描けるのかと、不安でした。しかしアニオー姫のことを調べていくと、これはただの恋物語ではないということがわかったんです。ベトナム南部の王国だった広南国と貿易地・長崎の文化、そして波乱に満ちたふたりの人生…調べることでわかった物語の壮大さに、ソンマイの持つおおらかさは相性が良いはずだと感じました」

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パンデミックと創作時期が重なり、困難を極め誕生した漆画は、神秘さも漂わせた深い奥ゆきを持ち、新作オペラへの高揚を喚起させるものへと仕上がりました。現在は在ベトナム日本国大使公邸のエントランスホールに飾られ、日本とベトナムの物語を象徴する絵として来訪者を迎えています。

本名さんと安藤さん。ベトナムに魅せられ、文化・芸術と共に生きる両者です。「外交関係樹立からは50周年ですが、実は700年代にベトナムの僧侶が日本を訪れているという文献の記述があるほど、両国の関係はとても長いんです。ベトナムのなんでもありなところ、人への感謝を忘れないところや美意識を持ち、家族を大事にする姿など…私は2000年に初めてハノイを訪れて以来、ずっとこの地にひかれています」と本名さんは話し、安藤さんは「自分のひらめきを信じること、相手のことをきちんと見ることなど、大切なことをこの国は教えてくれます」と言います。異口同音にベトナムを称えるふたりが美しい作品でつなぐ友好の形…。紛争耐えず、不安が広がる今の世界に、友好こそが最大で最高の国同士の関わりであることを、彼らは伝えてくれているのです。

アエラスタイルマガジンVOL.54 SPRING/SUMMER 2023」より転載

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