特別インタビュー
先進国が投棄した廃棄物をアートに。
美術家・長坂真護の展覧会が開催中。
2023.08.24
電子機器の墓場、ガーナのスラム街「アグボグブロシー」との出合いをきっかけに、この不条理な現実をアートに込めた長坂真護(ながさか・まご)。彼の展覧会「長坂真護展still A BLACKSTAR-truth of capital」が日本橋三越本店本館7階催物会場で開催中だ。作品は『路上時代』『ガーナ』『月』『新世界』『小豆島』など、自身の思いや経験をもとにさまざまなテーマで構成されている。
先進国が投棄した廃棄物の山が、地平線まで続く「アグボグブロシー」。
その荒涼とした風景は、長坂真護というひとりの名も無き画家に、とてつもなく大きな生命エネルギーをもたらした。初めて、ガーナを訪れたときのことを彼はこう回想する。
「虚実入り混じったカオスのような現実社会が、この地球上に存在していることがショックでした。先進国の繁栄は、彼らの犠牲のもとに成り立っている。『世の中はなんて不平等なのだろう』と思いました。それまで、先進国の枠組みの中で、漠然と『成功したい』と思っていた気持ちは、見事に消え去りました。そして、この不条理な社会を『アートの力でかき回したい』『命を懸けて彼らの敵討ちをしたい』そう思いました」
彼は“敵討ち”という表現を使った。実は、この言葉にこそ美術家・長坂真護の本質が垣間見える。
「若い頃の僕は、いろいろな仕事を経験しましたが、どれも続かず辞めてしまい、社会不適合者と思われても仕方がない状態でした。画家としても35~36歳くらいまでは、まったく評価されず、相手にされませんでした。それが、ガーナと出合って、自分の中にある生命エネルギーをすべて燃やし尽くしたいと思えたんです。ゴミを作品として発表した時点で『汚いアーティスト』と言われるリスクもありました。でも、そんなことはどうでも良かったんです。ただ、命を懸けて、キャンバスに向かいました。すると、あれよあれよという間に、資本主義の人間たちが僕を応援するという逆転現象が起こったんです」
彼が“敵”と称する先進国の富裕層が応援する皮肉に、さぞかし痛快だったろうと想像するが、彼の受け止め方は少し違った。
「路上の貧乏画家をここまでにしてくれたガーナには感謝しています。足を向けて寝られません。それと同時に『社会って、こんなにも温かかったのか』と思いました。既に作品は20億円分ほど売れました。展覧会には10万人動員。信じられません。こんなに社会が応援してくれるなんて思いもしませんでした。この感謝をガーナに大還元します。今年、1年分のアート売上に相当する1億4000万円を出資して、ガーナの人たちにサステイナブルの仕事を提供する計画です」
作品に高値が付くのは、紛れもなくサステナブルな社会を目指す一連の活動そのものへの評価と期待だ。その活動の価値とは、単なる慈善事業ではなく、創作活動に相応の対価を得て、循環型ビジネスとして成立させたことにある。この発想力と行動力には驚嘆するが、その原動力が“覚悟”と“感謝”によって、もたらされたものだったのであれば合点がいく。
最後に作品について話題を向けた。彼の作品はその背景やストーリーがわかりやすく言語化されておりメッセージがストレートに伝わってくる。これには明快に持論を語ってくれた。
「アートがわかりにくいのは、作家の努力不足だと思います。例えば、映画はパンフレット、ゲームは攻略本を見たほうが楽しめますよね。そもそもなぜ、芸術が難解性を求めるのかというと、元来、人間は『なんだ? これ』と思うような未知との遭遇を求めているからなんです。特に現代アートは、情報が行き届いているこの時代だからこそ、奇をてらう傾向が強いですね。僕はそれがダサいと思ってしまったんです。僕のアート作品自体はわかりやすいと思いますが、その代わり『本当にスラムをなくせるのか?』というビッグクエスチョンを提供しています。これこそが僕なりの『なんだ? これ』です。どこに向かうのかを示しながら、ワクワクできるように……」
彼は、2030年までに100億円を集めて、ガーナ人1万人の雇用を創出するという壮大な計画に向かって進んでいる。
「まだ、38人の雇用しか実現できていません。目標が達成できればヒーローですが、失敗すれば『令和の大ペテン師』と言われるかもしれません。本当に紙一重。でも、どちらでもいいと思っています。命ある限り、自分の人生をキャンバスにぶつけるだけです。どちらも選ばない中途半端な人生より100倍良いと思っています」
本展に足を運んで、彼の作品と対峙すれば、この熱量を間違いなく感じることができるはずだ。
長坂真護展Still A BLACK STAR - truth of capital ‒
⽇ 程:2023年8⽉23⽇(⽔)~8⽉28⽇(⽉) 午前10時~午後7時(最終⽇午後6時終了)
場 所:⽇本橋三越本店本館7階催物会場
Photograph:Hiroyuki Matsuzaki (INTO THE LIGHT)
Text:Shinichi Murao