カジュアルウェア
SHOWCASE
フランスのモッズがつくったコート。
2023.12.06
各界のプロの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。
90年代の一時期、モッズファッションにハマっていたことがある。メイド・イン・UKの極細スーツにロークのサイドゴアブーツを合わせて、36回払いで買ったベスパにまたがり地元埼玉の田舎道を走る姿は、相当奇妙だったに違いない。もちろんスーツの上にはおるのは、モッズ御用達の『M-51』コート。でも、米軍払い下げの古着だから当然汚くて、おしゃれな店に入ろうとすると、露骨に嫌な顔をされたりする。そんなとき、きまって僕の頭に浮かぶのは、マルセル ラサンスのフィッシュテールパーカだった。
マルセル ラサンスとは、当時大人たちの間ではやっていたフレンチアイビースタイルを代表するブランドで、なかでも人気だったそのコートは、『M-51』を題材にしながらも、上質なナイロン生地で色もカラフル。洗練されたスタイルは、ほこりまみれのモッズコート姿の自分にとっては、無性に輝いて見えたものだ。
あれから時は流れ、モッズの若者は街からほぼ姿を消したし、代官山にあったマルセル ラサンスのお店も今はない。でも最近久しぶりに、あの頃のフレンチアイビーが再注目されているみたいで、当時のフィッシュテールパーカの復刻モデルがシップスに並ぶようになった。もうベスパには乗ってないけど、大人になった僕は、こっちを買うしかないじゃないか! 実は数年前、パリでマルセル・ラサンスさんにお会いしたときにそんな話をしたら、「僕は60年代、フランスのモッズと呼ばれていたんですよ」と意外すぎる言葉が。そうか、フレンチアイビーって、フランスのモッズだったんだ! あの頃の自分に教えてあげたくなった。
文・山下英介
Eisuke Yamashita
ライター・編集者。『MENʼS Precious』などのメンズ誌の編集を経て、独立。現在は『文藝春秋』のファッションページ制作のほか、webマガジン『ぼくのおじさん』を運営。
hotograph: Ryohei Oizumi
Styling: Hidetoshi Nakato(TABLE ROCK.STUDIO)