靴
SHOWCASE
足元を輝かせると、
自信に満ちあふれる。
2023.12.27
各界のプロの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。
僕にとって靴磨きは人生そのもの。アルバイトで食いつないでいた20歳のときに手元にあった2000円で商売をしようと、百円ショップで靴磨きセットをそろえて、丸の内の路上で靴磨きを始めた。その後も洋服屋で働きながら、休日に靴磨きを続けた。何しろ靴磨きがおもしろかった。でも路上だけでは、できることが限られる。靴磨きの価値や地位も上げ、わざわざ靴を磨きに行くという文化を作ろうと、4年後、青山に店を構えた。
磨く以外にも、業界では不可能と言われてきた修理にも挑戦し、技術開発をしてきた。とはいえ一般的には、技術よりもまずは知識が大切。ブラッシング、クリームの量や付け方などがわかれば問題ない。やり方は動画がたくさんあるので、それを見るとわかりやすい。ビジネススーツに合わせる革靴は、輝かせすぎないのがコツだ。「靴磨き職人の目線で使いやすい」をコンセプトに開発したシューシャインギフトボックスには、極上のケアグッズを集めたのできっと満足してもらえるはず。革靴は手入れをするときれいになるだけでなく、寿命も延ばせる。履く頻度によるが、10回履いたら1回磨く。月に1回履く靴は2カ月に1回磨く。革は毎日少しずつ乾いて硬くなり割れてしまうので、まったく履かない靴でも年1回はクリームを入れてあげるといい。
あるとき当店に、新卒入社時に買った靴を自分の定年とともに引退させるという紳士が来た。「捨てる前に最後に磨いてほしい」と言う。心を込めてピッカピカにしてさし上げたら「やっぱりまだ履く」となり、結果、延命治療になったのだが。靴は人生を共に歩む存在なのだ。
文・長谷川裕也
Yuya Hasegawa
Brift H 代表・靴磨き職人。08年に東京・青山に「Brift H」をオープン。世界初のカウンタースタイルの靴磨き店として世界中から靴好きが集まる。17年、靴磨き職人世界大会で優勝。
Photograph: Ryohei Oizumi
Styling: Hidetoshi Nakato(TABLE ROCK.STUDIO)
Text: Tomoko Komiyama