お酒

世界が注目、ホテルダイニングの革新
【センスの因数分解】

2024.01.09

世界が注目、ホテルダイニングの革新<br>【センスの因数分解】
ジャン-ジョルジュの十八番というべきキャビアを使った料理も味わえる。

“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。ホテルダイニングに進化あり?

ホテルのダイニングと聞いて、どんなイメージを想起するでしょう? 空間のぜいたくさや美しさ、サービスの高さ、幅広い世代を受け止める懐の深さなどは、誰もが抱くことかと思います。日本のラグジュアリーホテルのダイニングに、新しい動きが見られるようです。そしてそれは国内のみならず、世界が注目するような流れでした。

THE-SHINMONZEN
建物は安藤忠雄が手がけ、わずか9つの客室はすべてスイート。

京都のThe Shinmonzenは、白川沿いに立つわずか9室しかないスモールラグジュアリーホテル。外資系のブランドホテルやリゾートが多く誕生している京都で、非常にユニークかつぜいたくな宿泊施設です。アートコレクターであるオーナーの目により選ばれた現代美術の数々がそこかしこに展示されており、アートホテルと呼びたくなるような場所です。

ここには、ニューヨークレストラン界の巨匠・ジャン-ジョルジュ(以下JG)のダイニング『Jean-Georges at The Shinmonzen(以下JGS)』があります。

「ホテルのダイニングを手がけてほしいというオファーは、毎月やってきます。そのなかで私が引き受ける理由は、デスティネーションに魅力を感じるかどうか。京都は繊細な美意識が息づく街で、私自身何度も訪れていますが、いつ訪れても学びがあります。京都でどんな店を展開していくか、友人であるオーナーから話をもらって以来3年ほど前から対話を重ねてきました」と言います。

シェフ
NYレストラン界の巨匠ジャン-ジョルジュシェフ(左)の元でスーシェフとして活躍したハナ・ユーン総料理長(右)が腕を振るう。

ダイニングの現場を取り仕切るのは、NYで彼の右腕だったハナ・ユーン総料理長。京都はもちろん、日本全国から取り寄せた厳選素材と、JGSならではのテクニックを融合させた料理により、京都の旅行客だけでなく地元の人たちも、味はもちろん、料理の新鮮さと刺激を楽しめるレストランになっています。JG自身も、シーズンごとに京都を訪れ、メニューの構築の陣頭指揮を執っています。

「ここにやって来ると、20ぐらいの新メニューが作れるかと予想していたものが、倍の40にはなります。それほど、インスピレーションが湧くのもJGSにやって来る大きな喜びです」

温度や見た目で季節を感じさせるのは、京都の割烹に代表される日本料理の魅力であり大きな特徴です。JGでは、そのエッセンスをフレンチに採り入れながら、器自体もオリジナルで作成するなど、ここ日本、京都の店としてほかにはない世界観を確立させています。

JG自身も、料理人としてのキャリアをバンコクのオリエンタルホテルからスタートさせており、ラグジュアリーホテルとの縁が深い人物です。また旅好きの一面もあり、プライベートでもさまざまなホテル体験を重ねてきているそう。そんな彼は、今の日本のラグジュアリーホテルの革新とも言うべき流れを、どう考えているのでしょうか。

レストランインテリア
和を意識したレストランのインテリアも美しい。

「そもそもの成り立ちとして、ホテルとは宿泊がメインであり、そのゲストのために食事を提供する形でダイニングが作られました。しかし現在は多様な価値が求められます。そういった状況で、より高いクオリティーをホテルが求めるケースは、日本のみならず世界で増えてくるのではないでしょうか。また、料理人が自分の店を持つということにおいて、初期投資にかかる資本や人材の確保という面も含め、どんどんハードルが上がってきています。あらかじめ場や人材という面をサポートしてくれるホテルの存在は、業界としても心強い存在と言えるでしょう。ホテルダイニングは、レストラン業界にとって良い未来のための舞台と言えるのかもしれません」

THE SHINMONZEN Jean-Georges at The Shinmonzen
京都府京都市東山区新門前通西之町235
075-533-6553(代表)
075-600-2055(レストラン)

高級ホテルが、宿泊施設としてだけでなく、広く食を提供する場として世界トップのレベルを求められる時流。そして料理人自身では用意するのが困難な環境を補うという点。ある意味、ホテルと料理人は、双方を補完し合う存在と言えるのではないでしょうか。

リッツカールトン
ブルーを基調にしたAFのインテリアと、ザ・リッツ・カールトン東京の客室。

開業16年となるザ・リッツ・カールトン東京(以下RCT)。世界的ラグジュアリーホテルブランドの45階にあるメインダイニング『アジュール フォーティーファイブ(以下AF)』にも、世界の食通が熱い視線を送るような新たな物語が生まれました。日本人として初めてパリのミシュラン・ガイドで三つ星を獲得した『レストランKEI』の小林 圭シェフが料理監修で参画したのです。

小林圭シェフ
小林シェフは年に2回来日しアジュール フォーティーファイブのスタッフたちと対面でコミュニケーションを取るという。

「イベントを通してRCTとはかねてより関わりがありました。ホテルと私の双方には、高品質の料理とサービスを提供し後世に素晴らしいものを残したい、という共通の理念がありました。今回料理監修のお話をいただいたことは大変感謝しています」(小林シェフ)

現場で実際に采配を振る村島輝樹料理長は、今春パリの小林シェフの元へ。シェフと休日返上で何度もディスカッションを重ね、イズムや価値観、そしてAFのビジョンを共有したといいます。

「小林シェフと私は、同時期にフランスに渡って料理を学んだという経緯がありました。そんななか多くのコミュニケーションを経て、フレンチへの感謝や日本の現状などを鑑みながら、ここで表現していく料理を作り上げていきました。たとえばかつて現地でフランス料理をいただいた際、ソースの素晴らしさに感動した体験を、ただソースをコピーするのではなく、その感動を伝えられたらと思っています」

小林シェフ監修のプレート
フレンチの王道から逸脱せず、洗練さを感じる料理構成。プレートなども小林圭シェフが監修。

伝統的な料理に敬意を払いながら、現代の人が感動するフレンチを質の高いサービスと共に提供する。世界中の人がやって来る東京のラグジュアリーホテルにおいて、世界的シェフが監修するレストランとしての、まさに王道とも言える道ではないでしょうか。またRCTのメインダイニングとしてふさわしいだけでなく、このような場が、日本のフレンチの未来の一助になるはずです。ラグジュアリーホテルのダイニングと世界的シェフが手を結ぶことは、味のみならず業界を刺激し、原点回帰を促す機会にもなっています。

個人の交流から生まれた京都の小さなホテルのダイニング。世界的ラグジュアリーホテルの東京のメインダイニング。性質は異なれど、どちらもラグジュアリーの新潮流だけでなくフレンチの展望が感じられるのです。

ザ·リッツ·カールトン東京
アジュール フォーティーファイブ
東京都港区赤坂9-7-1
東京ミッドタウン
03-3423-8000(代表)
03-6434-8711(レストラン予約)

Text: Toshie Tanaka(KIMITERASU)

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