特別インタビュー

ボルボ・カー・ジャパン株式会社 代表取締役社長
不動奈緒美 インタビュー[前編]
[ニッポンの社長、イマを斬る。]

2024.01.15

ボルボ・カー・ジャパン株式会社 代表取締役社長<br>不動奈緒美 インタビュー[前編]<br>[ニッポンの社長、イマを斬る。]

ボルボ史上最小のEV「EX30」を発表したボルボ・カー・ジャパン。8月、新しく社長に就任した不動奈緒美氏は、保険業界から転身し、自動車業界での経験は2年ほどの異色の存在だ。激動の自動車業界。不動氏に変化を恐れない生き方の秘訣(ひけつ)を聞いた。

各社でDX推進を指揮、新しいリーダーはいつもスニーカー

白のスニーカーにデニムという軽やかないでたちで現れた不動奈緒美氏。2023年8月、ボルボ・カー・ジャパン(以下、VCJ)社長に就任したばかりだ。「ふだんもスニーカーです。3・11で帰宅困難者となり、それからはヒールを履く必要があれば、その都度履き替えるようにしました。服にはそんなにこだわりはないですが、あまりブランドで選ばず、自分が着やすいものを選んでいますね。25歳の娘がいるので、時代に合わせて娘がアドバイスをくれることもあります。例えばこのジャケットも『今、ダブルのジャケットがはやってるんだよ』『ママはこういうのが似合うよ』と娘が言ってたので……。娘とファッションや食事などの話ができるようになって楽しいですね」

笑顔を絶やさず気さくに話す不動氏。米国の大学を卒業後、アクサ生命保険などの外資系企業で新規事業開発やDX(デジタルトランスフォーメーション)に携わり、数々のプロジェクトを成功に導いた。その実績とリーダーシップが評価され、21年5月にVCJ入社。DXや顧客体験の向上の指揮を執ってきた。

保険業界から自動車業界への転身というだけでも異色の存在だが、さらに入社わずか2年ほどで社長に就任。そして何より、「VCJとして初の女性代表者」である。不動氏の就任は、業界紙を含めて各メディアで驚きと期待感を持って報じられた。

ゴルフの練習に明け暮れた少女時代

小学校4年生の頃、セミプロの父の指導でゴルフを始めた。学校から帰宅すると、選択肢は2つ。塾に行くか、自営業の父に捕まってゴルフの練習に行くか。

「最初の1年半ほどは1度も球を打ったことがないんです」と不動氏は苦笑する。一日200回、素振りをさせられた。練習場に行けるようになっても、スイングをビデオに撮ってフォームの崩れを指摘された。「今となっては、父とゴルフを一緒に楽しめるのでよかったなと思いますが、当時は練習に行くのが嫌で。中学2年生ごろからはなかなか練習しなくなってしまいましたね」。女子プロにしたかった父の願いはかなわなかった。 時は流れ、大学2年。建築を学んでいた不動氏は、1カ月間、研修で米国に行き、この地に留学したいと強く思った。

「『私はみんなと違うんだ、留学するんだ』って勝手に思い込むところがあったんです。なんか笑っちゃうんですけど。それで一生懸命、親を説得しました。最初はびっくりされましたが、どうしても行きたいということと、少しではありますが奨学金がもらえるということで、最終的には賛成してくれました。とはいえ、当時は1ドル200円以上したので、苦労をかけたと思います」

米国の大学を卒業するにあたり、学生ビザのまま1年間インターンシップができるという話を父親にしたところ、『せっかく行ったんだから海外で働いてみたら』と背中を押してくれたという。

大学で学んだCADの技術が見込まれ、すぐにボストンのソフトウェア会社に就職が決まった。1年も経たずに就労ビザが下り、米国での勤務は9年にわたった。

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私にとって、仕事はロマンなんです

日本に帰国後、ソフトウェア会社を経て保険業界へ。働く女性には付き物のいわゆる「子育てと仕事の両立」という壁と戦った。

「なかなか保育園が見つからず、復帰まで1年半ほどかかりました。とりあえず入れたところは認可保育園ではなかったので、保育料がすごく高くて。新しく認可保育園ができるという話を聞きつけて、わざわざその地域に引っ越しもしました。無事に入園してからも、仕事が終わるとお迎えの時間に間に合うよう、ダッシュです」

そこまで苦労しながらも仕事を続けてきた理由は、「私にとって仕事はロマン」だから。

「これはもう20年ぐらい言いつづけています。仕事をするうえで、私はいつも自分なりのプライドを持って臨んでいます。プライドとは、見栄を張るという意味ではなく、自分がロマンを感じる仕事に対して、やり遂げたい目標やゴールを設定し、それを達成するために努力をしているということ。具体的にどんな目標かは他人には言いませんが。こうしたプロとしてのプライドを持っているからこそ、大変だった時期も乗り越えて仕事をしつづけてこれたと思います」

ヒールを履いてお迎えまでダッシュしていた頃から20年以上経ち、時短勤務制度の導入が義務化され、働き方も改革された。

「それでもまだ子育てに苦労されてる方がたくさんいらっしゃると思います。会社は従業員一人ひとりの力があって成り立つもの。社会の使える仕組みはできるかぎり有効に使うことはもちろん、会社も個人に委ねるのではなく、そういう仕組みを利用して従業員を育てていこうと努めるべき」

インタビュー後編につづく>>

プロフィル
不動奈緒美(ふどう・なおみ)
北海道出身。1991年米国メアリービル大学卒業。2010年アクサ生命保険に入社。18年マニュライフ生命保険入社。21年5月ボルボ・カー・ジャパン入社。ダイレクトトゥーコンシューマーオペレーションズ本部長などを経て23年8月に社長就任。

「アエラスタイルマガジンVOL.55 AUTUMN/WINTER 2023」より転載

Photograph: Kentaro Kase
Text: Yukiko Anraku

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