特別インタビュー

ボルボ・カー・ジャパン株式会社 代表取締役社長
不動奈緒美 インタビュー[後編]
[ニッポンの社長、イマを斬る。]

2024.01.22

ボルボ・カー・ジャパン株式会社 代表取締役社長<br>不動奈緒美 インタビュー[後編]<br>[ニッポンの社長、イマを斬る。]

ボルボ史上最小のEV「EX30」を発表したボルボ・カー・ジャパン。8月、新しく社長に就任した不動奈緒美氏は、保険業界から転身し、自動車業界での経験は2年ほどの異色の存在だ。激動の自動車業界。不動氏に変化を恐れない生き方の秘訣(ひけつ)を聞いた。

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ほぼすべての役職を廃止。よりパーパス・ドリブンに

今、自動車業界は「CASE」(Connected/Autonomous/Shared/Electric)という4要素によって「100年に1度の大変革期」と言われている。

「日本の自動車業界はコンサバティブな業界ですが、これからは話すスピードでいろいろな物事が変わっていく。そのなかで、今までの枠にとらわれない考え方や取り組み方が必要だと感じます」

“コンサバティブな業界”を象徴する一例として、自動車業界は女性管理職比率が低いと言われ、各社とも女性活躍に力を入れている。ボルボ・カー・ジャパン(以下、VCJ)もダイバーシティを重視し、「50:50のジェンダーバランス」に取り組んでいる。また、VCJではさまざまな働き方を受け入れることを表明。育児休暇は父母に限らず、養父母や里親、代理母、養子を迎えた同性カップルなど多種多様な家族からの申請に対応する。さらに、コロナ禍以前から週2回の在宅勤務を推奨。出勤にあたってはコアタイムのないフレックス制度を導入している。

従業員の働きやすさを維持しながら、企業が成長していくヒントは、「Purpose-oriented organization」だと不動氏は言う。

「組織を成立させるために、従業員個人個人が、自分の目標や目的をしっかり認識し、明確にすることを重視しています。そのために上司と定期的に話し合いを行っており、信頼関係を築きながら目的に合わせたチーム構成や組織体制を取っている。だから、すごくアジャイルなんです。同じ目的を持った人たちに働ける環境を提供する、それがボルボです」

不動氏が社長に就任してまず行ったのは、タイトル(役職)の廃止だという。「VCJが目的に向かうための組織作りをさらにもう一歩進めるために、タイトルを廃止し、よりいっそう風通しを良くしてお互いが協力し合いながらアジャイルに動ける体制にしました。もちろんチームで働いているので、誰かが目標の設定や評価をしなければなりませんし、私や本部長職の社員はHeadというタイトルを使っているので、100%フラットにしたわけではありませんが、『自分はマネージャーだから、ディレクターだから』といったタイトルで仕事をするのではないということを従業員みんなに認識してほしいと考えています。初めは戸惑う人もいたようですが、業務のうえで特に問題は生じていません」

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【OFF BUSINESS】旅先でよく美術館に行きます。この写真は長崎のハウステンボス。いつもとは違う景色を見て五感を刺激するようにしています。

興味が前進させる大きなエネルギー

ボルボは2030年までにすべての新車販売をEV化、2040年までに、CO2だけでなくすべての温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「クライメートニュートラル達成」を掲げている。

そんななか、8月に発表となったコンパクトSUVの新型BEV(バッテリ電気自動車)「EX30」は、走行時だけでなく、生産から廃棄までライフサイクル全体にわたるCO2排出量がボルボ史上最少を誇る。リサイクル素材の利用率もボルボ製品のなかで最も高い。そのうえでボディサイズはボルボ史上最も小さいEVだ。

「本社は日本の都市部で道幅が狭い路地が多いということや、駐車スペースも狭く、幅や高さに制限がある立体駐車場が多用されているという日本特有の事情をよく理解し、コンパクトなサイズのEX30が日本で需要が高いことを認識しています。EX30の世界の中でも早い発表は、日本の市場に対しての期待の表れだと思います」

VCJでは新しいクルマの乗り方としてサブスクリプションも推進している。EX30も10月から300台限定でサブスプリクションサービスの申し込みが始まった。月額9万5000円に車両保険や通常のメンテナンスプログラムなどが含まれている。高級車を所有することがステイタスだった時代から、安心できるクルマを賢く生活スタイルに合わせて利用する時代に変わってきている。

変化の激しい時代のなかで、不動氏は、DX、GXと、時代の先端を走りつづける。新しい時代へ、臆することなく進んでいける秘訣は何だろうか。

「まずひとつは、他人や他のビジネスの価値に対して敬意を払うこと。もうひとつは、何事にも興味を持つことを大切にしています。新しいことへの興味は人を前進させる大きなエネルギーになり、興味を持つからこそ世の中の変化にもついていけるのだと思います」

その興味の源泉は「この世の中は、自分が見えてるものがすべてではないことを知る」ところから湧いてくるという。

「私がボルボに転職したのも、その気持ちが大きかったから。いま自分が見えている金融の世界だけがすべてではない。自動車業界はまったく知らない業界でしたが、だからこそ興味を抱いて転職することができました。この10年間、世の中は大きく変わりました。かつて想像していなかったことが次々に起きています。そうしたなかでも、自分が挑戦できるかどうか、前進できるかどうかを決めるのは自分しかいません。知らない世界に向き合うことに恐れず、興味とワクワク感を持ちつづけることが大切だと私は思っています」

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プロフィル
不動奈緒美(ふどう・なおみ)
北海道出身。1991年米国メアリービル大学卒業。2010年アクサ生命保険に入社。18年マニュライフ生命保険入社。21年5月ボルボ・カー・ジャパン入社。ダイレクトトゥーコンシューマーオペレーションズ本部長などを経て23年8月に社長就任。

「アエラスタイルマガジンVOL.55 AUTUMN/WINTER 2023」より転載

Photograph: Kentaro Kase
Text: Yukiko Anraku

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