お酒
McSORLEY’S OLD ALE HOUSE
【第3回】
[ニューヨーク、 バーが伝える高揚、洒脱、そして文化。]
2024.01.19
パンデミックを経て、ニューヨークは何が変わり、何が変わらず、何を今伝えたいのか。人々が集うバーを巡り、“ニューヨークの思い”を探ってみると……。
歴史的酒場が街に愛されつづける理由
NYCは日々目まぐるしく変化しつづけてきた街である。その一方で、変わらないことを実直に大切に守ってきてもいるようだ。「McSorleyʼs Old Ale House」は、イーストヴィレッジにある。創業はなんと1854年! 日本の江戸時代末期から続いている。創業当時からほとんど変わっておらず、飲み物はライトとダークのエールビールのみ。1オーダーで小さめのジョッキに2杯出てくるのも同じだ。
現オーナーであるテレサ・マーハーさんは、先代の娘。今は夫と共にこの酒場を守っている。170年近い歴史のなかには、パンデミックや911を乗り越えてきただけでなく、禁酒法や女人禁制の過去もある。
バーの多様性は加速する一方だ。そんななか、「McSorleyʼs」初の女主人は、変化への対処に悩んだこともあったそうだ。しかし周りに気を取られるのではなく、この店を訪れる人だけに集中せよという先代の言葉に覚悟を決めた。
だから飲み物はワインも出さない。つまみの一番人気はずっとチーズとスライスオニオンとクラッカー。シンプルで在りつづけることが、らしさとなりスタイルへと昇華していく。生き馬の目を抜く街で己を見失わないでいることがいかに難しいかは、たやすく想像できる。そんな店がずっと同じ場所に同じ眺めでいてくれる。それもNYCの紛れもない一面なのだ。
Photograph: Kosuke Mae
Coordination: Yasuyo Hibino
Edit & Text: Toshie Tanaka(KIMITERASU)