週末の過ごし方
和に愛されるシャンパーニュのソーシャルグッドな物語
【センスの因数分解】
2024.01.23
“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。
秋深まればホリデーシーズンはすぐそこ。パンデミック後、再び人が集い祝えるようになったのですから、多くの人が楽しい計画に高揚していると思います。
特別な機会のために、シャンパーニュ、しかもプレステージのプレステージたる理由を探ってみるのも一興。『ドン・ルイナール(以下DR)』は世界最古のメゾン『ルイナール』のプレステージシャンパーニュですが、実は日本料理店に選ばれるケースも多い銘柄です。
白ブドウのシャルドネ種を100%原料とする「ブラン・ド・ブラン」の最高級シャンパーニュで、黒ブドウを使った「ブラン・ド・ノワール」に比べてすっきりかつ繊細な味わいが特徴です。この個性が、素材のポテンシャルを出汁を代表とする吟味された調理で仕上げる和食にぴたりとはまるのでしょう。昨年リリースされた新エディション『ドン・ルイナール 2010』のイメージムービーでは、HIGASHIYAや八雲茶寮の亭主であり、パリに『OGATA PARIS』をオープンさせた緒方慎一郎氏が登場。DRが表現する世界と、和の親和性について語っています。
さて、シャンパーニュをはじめとするワインの世界でも、サステイナビリティは最重要課題のひとつです。その一環としてボトル栓をスクリューや王冠タイプにシフトする動きがありますが、世界で最も歴史のあるメゾンが導き出した回答は、それらとは異なるものでした。
コルクの原料となるのは、コルク樫と言われる木の表皮で、再生機能により採取しても約10年後にはまた原料となります。しかし、ファーストコルクはワインボトルの栓として適したクオリティーとは言えず、適したものを得るには樹齢40年以上のものに限られてしまうといいます。ワインにはブショネという劣化現象があり、細菌などが付着した汚染コルクが原因。それを防ぐためにも、組織が密で均一である質の高いコルクが、高級ワインには求められます。スクリューや王冠タイプを採用する背景には、このような理由もありました。
しかしワインの質ということに関してある一定期間を超えると、スクリューや王冠タイプよりもコルクのほうが、高い質を保つことが研究からわかったのです。
ルイナールでは、コルク樫農園をサポート。最大産地であるポルトガルのコルク林での植林を行っています。また採取まで最低43年という超長期プロジェクトであることから、すぐに地場での収入となる作物も並行して栽培することで、継続性を鑑みた援助となっています。
かつて伊丹十三は、日本人の高級フレグランスの買い物が「高いことが最優先」なことを引き合いに出した随筆を書いていました。同じフランスが生んだ宝であるシャンパーニュにおいて、50年を超える時間がたった今、どのような選び方をするのか。世界最古のメゾンのアクションは、とても良い動機を提供してくれているように思います。