週末の過ごし方

ニューヨークから発信。ラグジュアリーホテルの新潮流
【センスの因数分解】

2024.01.16

ニューヨークから発信。ラグジュアリーホテルの新潮流 <br>【センスの因数分解】
時を忘れる1HOTELブルックリン・ブリッジからの眺め。ルーフトップでは飲み物と都市の絶景を楽しめる。

“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。ホテルダイニングに進化あり?

豊かさというのは、一貫性があるようで、実際のところは時流や価値観が大きく影響するものです。多くを所有していること、最新を手に入れていること、というかつて主流だった消費ベースの上に生まれる事柄が果たしてラグジュアリーなのか。そう疑問を抱く人は、今や世代や国境を超えて増えているのではないでしょうか?

1HOTELは、サステイナビリティを取り組みよりもさらに踏み込み、「使命」と掲げる初のラグジュアリーホテルレーベル。セントラルパークとブルックリン・ブリッジと、ニューヨークでは2つのプロパティがあります。訪れれば、双方とも環境への配慮になることを積極的に見いだし、どんな小さなことでも実践していることが伝わってきます。

地元の廃材を極力使用している共有スペースや客室。ホテルでのコンプリメンタリー(無料提供)飲料水は、施設内に作られた節水ろ過システムから提供されます。またコップ類はワインボトルの空き瓶をアップサイクルしたもの、「トークン」と呼ばれるルームキーは廃材から作った木製など、再生可能や非プラスチック素材採用を徹底しています。シャワーブースには、なぜか砂時計が。砂が落ちきるまでの時間は5分で、お湯を使いすぎないようひとつの目安にしてほしいという思いが込められています(もちろん砂時計は電気を必要としませんし、再利用できる素材で作られています!)。

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節水ろ過システムのタップとアップサイクルのコップ。すべての施設は2018年にカーボンニュートラルを実現。

「われわれはブランドではありません。“私たちをとりまく世界は美しい。それを維持していきたいというただひとつの思いを基盤として、すべてを構築する”という大義こそ、1HOTELそのものです」これが哲学だと言います。それを根幹としたうえで、宿泊施設やプランといった枝葉たちをデザインしています。サステイナビリティに特化した大義あるホテルと聞くと、もしかしたら宿泊に我慢や窮屈さを伴うのでは、と思う人がいるかもしれません。しかしその不安は杞憂(きゆう)に終わるでしょう。ニューヨークの2つの1HOTELは、立地の特性を利用しながら、今の気分を上手に組み込み、心地よい滞在を提供しています。

1HOTELセントラルパークでは、マンハッタンの建物でこれ以上はない、というほどの植物が茂るファサードとロビーがゲストを迎えます。窓辺に作られたデイベッドコーナーは、街の息吹を感じながら読書や飲み物を楽しむのに最適なスペースで、専有面積のなかで最大の効果が感じられるコーナーづくりに成功しています。上層階のスイートの窓からのセントラルパークの美しい眺めが人気で、すぐに予約が埋まってしまうのだとか。一方1HOTELブルックリン・ブリッジは眼前に摩天楼のビューが広がり、それを中心としてインテリアデザインがされています。ルーフトップにはニューヨークでは非常にレアなアウトサイドプールを擁し、地下には2つのプロパティ共通のアメニティである英国の高級アロマブランド「バンフォード」のスパも。

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    1HOTELブルックリン・ブリッジのオーガニックテイストのスパは男性セラピストも。
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    1 Hotel Brooklyn Bridge
    60 Furman St, Brooklyn, NY 11201
    https://www.1hotels.com/brooklyn-bridge

また毎月ひと晩、ホテルのロビーの照明を落としてキャンドルをともしたり、満月にフルムーンパーティーを催すなど、都市にいながら自然の息吹を感じ自分がその一部であることを再認識させる機会も用意しています。

有形無形なこれらの要素から伝わってくるのは、彼らが「大義」と呼んでいるなかで言及する「美しい世界」を共に守っていきましょうという思い、さらにはゲストにマインドフルな時間を作ってほしいというメッセージです。また同時に、それらは誰かを陥れたり、誰かに無理を強いなくてもきっと実現できるはず、というポジティブな姿勢も感じます。

それが、ガーデンチームにより毎日ケアされた美しいグリーンや、廃材は使うけれどデザイン性や快適性は犠牲にしない空間の実現、うっとりするような香りを楽しめる質の高いアメニティとなってゲストを迎えるのです。手間をかけることやセレクト力、そしてハイセンスというのは、豊かさにおいて普遍的なファクトです。ホテルとしてのサステイナビリティの観点からの徹頭徹尾な取り組みと、ゲストに向けたハードとソフト双方の観点からのケア。1HOTELではそれらが共存しており、かつてラグジュアリーと同義であった消費をベースにした事柄とは全く違うベクトルのラグジュアリーを表現しています。

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セントラルパークの南に位置する1HOTELセントラルパーク。そのプロパティは、生い茂る緑が目印。室内外のグリーンは洗練された形で環境へ意識を向けさせてくれるだろう。

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    1 Hotel Central Park
    1414 6th Ave, New York, NY 10019
    https://www.1hotels.com/central-park

グループの発端は2015年。マイアミのサウスビーチと、マンハッタンのセントラルパークのホテルがオープンし、次いで17年にブルックリン・ブリッジが開業しました。時はフレンドリーなサービスやカジュアルなテイストがラグジュアリーの世界と親和性を高めていった時期に符合します。

この動きはファッションだけでなく車やインテリアなど多様なジャンルにおいて定着しました。高級ホテルにサステイナビリティとリラックスの共存を実現し、さらに高いデザイン性のある1HOTELは、まさにいま求められる高級ホテルの形を構築していると言えましょう。環境へのポジティブなアクションを美しくプレゼンテーションするホテルには、ゲストと未来に心地よい宿泊体験があるのです。

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「アエラスタイルマガジンVOL.55 AUTUMN/WINTER 2023」より転載

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