特別インタビュー
唯一無二の時の流れ――。
町田啓太、韓国の不夜城「インスパイア」で非日常を遊ぶ。
2024.03.28
つい先日、仁川国際空港にほど近い広大なエリアにその施設はグランドオープンした。その名は、インスパイア・エンターテインメント・リゾート(以下、インスパイア)。ホテル、カジノ、アリーナ、アート……。“非日常”があふれる一大施設を、町田啓太と訪ねた。
仁川国際空港からタクシーに乗り、15分ほど走らせると、広大な土地に展開する建物群が視界に飛び込んできた。インスパイアーー。ホテルやショッピングモール、カジノ、アリーナ、プールなど多様な施設とアトラクションを備える新世代エンターテインメントリゾートだ。初めて訪れた町田啓太は、車内から施設の全貌を素早くとらえつつ、そのスケールに、思わず感嘆の声を上げていた。
放送がスタートし、撮影が佳境を迎えている大河ドラマ『光る君へ』(脚本/大石静)は、約1000年前の宮中が舞台。そんな日本からわずか3時間足らずで現代エンターテインメントの最先端へと“タイムスリップ”してきたわけだが、驚きはこのあとも続く。施設内を歩けば歩くほど、テーマ性、色彩、デザインが町田の心をかき立ててきたのだ。
「中に入ってからずっと、いったいどこの国にいるんだろうという不思議な感覚を味わっていました。何か、特定の国を意識していない、限定していない感じがしたんです。カジノがあるからラスベガスっぽいようなところもあるけれど、必ずしもそうとも言えない。要所要所に立体アートがあるのは楽しく、レストランやバーもあらゆるジャンルがそろい、カジノやショッピングまで楽しめる。夜通し眠れない、いや、寝させないぞという時間の流れが漂っているなと思いました。ホテルステイでゆっくりというよりは、思いきり自由に楽しんでください、というメッセージなんでしょう」
カジノと共にインスパイアに生命力を与えているのは、1万5千人を収容するアリーナだ。韓国エンターテインメント界の揺るがぬ心意気を、町田は感じた。
「こういうホテル、カジノのある複合施設にああいうライブ会場があるというのがさすが韓国だな、と思いました。近年の韓国のエンタメ界は、ドラマ、映画、音楽とあらゆるジャンルでグローバルに楽しめるものを本当に一生懸命つくり続けていると思う。そして、そのための努力がまたえげつないぐらいすごい。時代のとらえ方も敏感だし、アップデートもものすごく早い。そんなアーティストたちにとって、1万5千人のセンターステージという規模感は最高なんじゃないかな。お客さんともいい距離感で、絶対に見やすいし、日本人を含め、もういろんなアーティストがここでやりたがると思います」
カジノとアリーナのエントランスはもう目と鼻の先。そして、この二大施設を取り囲むようにレストランやバーが点在する。
そんな施設を存分に楽しんだ翌朝、ホテルの一室でインタビューがスタートする。施設の華やかさとはうって変わって室内は静寂さに包まれている。
ひと通り、インスパイアのインプレッションを聞いたあと、話は、やはり、平安時代を生きた女性、紫式部を主人公に据えた大河ドラマ『光る君へ』に。町田が演じるのは、藤原公任という公卿。歌人として評価されながら、深謀遠慮渦巻く宮廷と時代を75歳で亡くなるまで生き抜いた人物だ。
「多くのドラマは、ワンクール10話とかですが、大河は1年間続くので、50 話にもなるわけです。考えてみれば、それだけでもすごいことですよね。大石(静)先生が平安時代に生きた人物たち全員のキャラクターを考えつつ、オリジナリティを入れながら動かしていく。時代考証もきっちりやりつつですから、当然かつて経験したことのないようなすごい現場になっています」
戦国時代、江戸時代を描いた大河ドラマはあまたあれど、平安時代の女性を主人公としたのは初めてのこと。所作や衣装、小道具などひとつひとつの時代性を考慮しながら現場は動いていく。
「たとえば、当時は、正座ではなく、あぐらが多かったりする。所作の先生に『現代人だとこう動くところはどうすれば?』と細かく尋ねながらやったりするのもまた面白くて」
時代考証はもちろん、書や歌、踊りなど、それぞれ専門の識者が立ち会い、適切な演技が指導される。しかも、そこで使われる笛や硯すずりは年代物の国宝級のものだったりする。現代の人が親しめるようにデフォルメしているとはいえ、細部までリアルが追求されているのだ。
そうした事象や所作のひとつひとつを濃密な現場で吸収し演じながら、町田は、役者としてまたひと回り大きくなっているのだろう。
昨年は、イタリア、フランスでのロケも経験、33歳の俳優は、休むことなくインプットを続ける。
「エルメスのショーに出演したりなど、ファッションに関してのインプット量もすごく多かった。スタイリストさんからファッションについて教わったり、みなさんからカルチャーの情報を得たり。そんな経験がまた別の場所で別の分野の方と話すときにも役立ったりしている。共通言語が増えてきたという実感があるんです。これからもいいアップデートを続けていけたらいいな、と思っています」
きらびやかな隣国への旅も、1000年をさかのぼる大河ドラマも、いまはそのすべてが町田啓太の糧となっている。
町田啓太(まちだ・けいた)
1990年生まれ。俳優、劇団EXILEメンバー。映画『チェリまほ THE MOVIE〜30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい〜』『太陽とボレロ』『ミステリと言う勿れ』、テレビドラマ『テッパチ!』(フジテレビ系)、『ダメな男じゃダメですか?』(テレビ東京)、『unknown』(テレビ朝日系)、『漫画家イエナガの複雑社会を超定義』(NHK)など話題作に多数出演。大河ドラマ『光る君へ』にて藤原公任役を好演中!
Photograph: Sunao Ohmori(TABLE ROCK.INC)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up: KOHEY(HAKU)
Text: Haruo Isshi