靴
SHOWCASE
ふつうじゃない、ふつうの靴。
2024.04.10
各界のプロの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。
能書きばかり並べ立てる今どきのラーメンよりも、名もなき町中華で食べるふつうのラーメンのほうがおいしかった……みたいな現象に、近頃やたらよく出くわす。どんなに優れた素材や技術も、その使いどころを間違えたら、本来の持ち味は発揮できない。だとしたら、その決め手となる要素ってなんだろう?
そんなときにInstagramで目にしたのが、韓国人靴職人のハンさんが甲府市で主宰する小さな工房「ハン シューメーカー」の紳士靴だった。いわゆるパターンオーダーで、全くけれん味のないふつうのデザインだけに、どんな靴かと聞かれると困ってしまう。でもこの靴には、ふつうじゃないオーラを感じるのだ。その秘密は革? 縫製? それとも木型?
「ハンさん、どうしてあなたがつくる靴はきれいなんですか?」
そんな素人丸出しの質問をハンさんにぶつけたら、彼は笑いながら「ぼくが目指すのはふつうの靴なんですよ」と教えてくれた。もう少し具体的に伺うと、「徹底的に角を落とし、すべての曲線をつなげるよう心がけている」とのことだ。言うは易しだが、これをやり切れているシューメーカーは世界的に見ても数少ない。だってどれほど手間をかけても、気付く人はそう多くないから。もしかして、あのとき町中華で食べたラーメンにも、そんな哲学やこだわりが隠されていたのかな?
目先のキャッチーさばかりもてはやされる昨今にあって、そうした地道なものづくりを貫くのは茨の道かもしれないが、だからこそぼくは彼らを応援したい。だって〝本物のふつう〟は、ぼくたちの生活を豊かにしてくれるから。
文・山下英介
Eisuke Yamashita
ライター・編集者。『MENʼS Precious』などのメンズ誌の編集を経て、独立。現在は『文藝春秋』のファッションページ制作のほか、webマガジン『ぼくのおじさん』を運営。
Photograph: Yuki Saito
Styling: Hidetoshi Nakato (TABLE ROCK.STUDIO)
Text: Eisuke Yamashita