特別インタビュー

ロスチャイルド家が受け継いできたこと、次世代へ繋げること。

2024.04.23

ロスチャイルド家が受け継いできたこと、次世代へ繋げること。

五大シャトーとして知られるシャトー・ムートン・ロスチャイルドや、シャトー・ダルマイヤック、シャトー・クレール・ミロンそして世界最大規模の販売数であるムートン・カデといった、フランス・ボルドー地方を中心に広くワインビジネスを展開するバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社。フィリップ・セレイス・ド・ロスチャイルドは今から10年前、ワイン業界では大きな存在感を持った母フィリピーヌ・ド・ロスチャイルド男爵夫人の逝去後にビジネスを継承し、2014年には会長兼最高責任者に任命された。そしてフィリップ氏は妹のカミーユ・セレイス・ド・ロスチャイルド、弟のジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルドとともに、同じ情熱を持って事業を展開している。

世界的名家の事業の中心であるワインだが、経営者として心を砕くことの根幹にあるのは、どんなことなのだろうか。

「ファミリービジネスとしてワイン事業を始めてから170年以上、私で6代目となり現在は7代目となる私の子どもも参画しています。代々が培ってきたノウハウや文化、原則を継承し次世代へと渡すことはとても重要なことだと考えています。ワインを飲む人たちは、そこに特別な“何か”を求めていると思います。わたしたちはそんな特別な何かがきちんと伝わってくるようなワインを造らなくてはいけません。その鍵を握るのは、やはり人になるでしょう。ワインは一人では造れません、多くの人が関わります。経営者としては、そんな大切な人材を、適材適所に据えることが求められます。また経験やモチベーションなどを鑑みながら新旧のタレントをうまく融合させることが、新世代へと続く道にもなるのだと思います」

ワイン産業という、ファミリー事業でありながら多くの人が関わるビジネスのトップとして人材の個性を見極めるだけでなく、新旧の才能を融合させることで技能や知恵を受け継ぎ、そして活気を場に与えるわけだ。淀みなく語る言葉の端々に、スマートな経営者の顔が覗く。また一方で、内面のマネージメントも重要であるとフィリップ氏はいう。

「ワインの原料となるブドウは、自然環境の影響で毎年味わいが大きく変わり、計算や予測の通りにいかないことも多々あります。そして素晴らしいワインを造るには、長い時間を要します。ですから、大いなる自然を相手にしているという謙虚さや失敗しても次へ向けて動き出す忍耐力が求められます。ヴィンテージが異なるとブドウが変わるわけですから、もちろん収穫するワインの個性も年ごとに変わります。ですから(ワイン造りの際は)いつも初めて挑戦する気持ちでいます。毎年新たな出合いがある、ということを楽しめる好奇心も大事ですね」

長く続くファミリービジネスを継承する者としての人を見極める眼、適材適所へ据える判断、そして現場の新陳代謝を図ることで次世代への土台を造る。さらには自然相手のワインビジネスをリードする存在として、忍耐や謙虚さ、そして好奇心といった人としての大切な素養を意識する。世界に名を轟かせる男爵家の当主の口から出てくる言葉は、何かを統治していく、というよりも何かを生かすためにどう働きかけるか、どういう心持ちで振る舞うかを語っており、これこそが名家に受け継がれてきたスピリットなのではないだろうか。

さて受け継ぐ、といえばボルドーから大西洋を超えた南米・チリにも象徴的な存在がある。プレステージ赤ワイン『バロネサ・ピー』である。母堂フィリピーヌ・ド・ロスチャイルド男爵夫人へのオマージュとして、2018年をファーストヴィンテージとして誕生。現在2021年がリリースされている。

「『バロネサ・ピー』は、大胆で慎重といった彼女の相反する性質が同居していた人柄を表現するアッサンブラージュ(ブレンド)が大きな個性となっています。エレガントでありながら力強さも持ち合わせているワインです。彼女が魅せられたチリの素晴らしいテロワで、そんな複雑さ、奥深さがありますが、エイジングすることでさらに魅力が増してくるのも大きな特徴でしょう。私たちがワイン造りで学んだ知恵やノウハウなどが『バロネサ・ピー』に生かされています」

生前、男爵夫人は「名声には権利と責任が伴う」と子息であるフィリップ氏に言っていたという。環境への配慮は今までになく厳しく求められ、SNSによって多くの人が多くの情報を簡単に得て発信できる今。ロスチャイルド家の歴史上、フィリップ氏はいまだかつてなかった時代の当主として指揮を執らなければいけない。それはファミリーとして受け継いできたものをただ忠実に守るだけでなく、より時代に即した形で継承をすることを求められるのは、容易に想像がつく。では新時代の名家の当主はどうあろうとしているのか。

フィリップ氏はいう。「SNSによりどんな情報も簡単に共有できる時代だからこそ、一本一本のワインにもっと誠実であるべきだと思っています。またこれからの時代も事業を続けていくためには、たとえミスをしたとしてもそこへ迅速に対処するポジティブな姿勢が必要です。もちろんワイン造りと環境への配慮は大きなカギになります。単純にはいかないことも多いでしょうが、だからこそしっかりと向き合うべきだと考えています」

困難な時代の当主はファミリーや母から受け継いだ理念を通し、未来を見据えているのである。

Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)

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