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笹生優花が優勝、渋野日向子2位、初出場の竹田麗央9位……
全米女子OPで示された日本勢レベル向上の理由。

2024.06.07

笹生優花が優勝、渋野日向子2位、初出場の竹田麗央9位……<br>全米女子OPで示された日本勢レベル向上の理由。
写真:AP/アフロ

ゴルフの全米女子オープン(米ペンシルベニア州ランカスターCC)で、22歳の笹生優花が2021年大会以来2度目の優勝を果たした。日本勢の海外メジャー複数回優勝は男女を通じて史上初の快挙となった。そして、トップ10入りは計5人(2位 渋野日向子、6位 古江彩佳、9位 竹田麗央、小祝さくら)、予選通過者14人も含めて、女子の海外メジャー史上最多人数で「日本勢強し」を世界に印象づけた。その最大の要因は、国内ツアーのレベルアップにほかならなかった。

笹生が勝って、渋野が単独2位。全米女子オープンのワンツーフィニッシュは、笹生と畑岡奈紗がプレーオフを戦った21年大会以来2度目だが、古江、竹田、小祝もトップ10入りを果たした。そして、国内ツアー2年連続年間女王の山下美夢有は12位、21歳にして国内通算6勝の岩井千怜は19位で、トップ20入りは計7人。女子海外メジャー大会の歴史をさかのぼると、日本勢が最も多くトップ10に入ったのは08年の全英女子オープン(不動裕理3位、宮里 藍4位、上田桃子7位)の3人。トップ20は20年エビアン選手権、全英女子オープン、23年全米女子オープンの4人だったが、いずれも更新となった。

昨季から不振に陥っていた渋野も復活。最終ラウンドを終え、記者会見で「日本勢躍進」の理由を問われると、独自の考察をしてみせた。

「自分は置いておいて、(ショットが)曲がらない選手が多いからこそ、こういう傾斜が多くて、アップダウンが多いコースには向いていたのかなと感じました。グリーンもすごくきれいだったので、日本に似ていたのかなと」

全米女子オープンは5つある女子の海外メジャー大会で、「最も権威がある」とされる女子版マスターズ。世界ランキング75位までの選手と日本も含めた各地区での予選会通過者らが出場できる。今年は156人がエントリーし、出身国は27カ国。最も多いのがホスト国の米国で総勢50人、日本は2番目で21人(昨年大会は22人)、「強者ぞろい」とされた韓国の20人を上回った。

この時点で「層の厚さ」を感じさせるが、渋野の言うとおり、歴史的に日本勢は「曲がらない選手」が多い。2005年、第1回女子W杯で優勝した宮里 藍、北田瑠衣のペアも当時、「曲がらないこそ勝てた」と評価された。だが、海外メジャー大会はそれだけでは勝てない。グリーン周りにもある深いラフ、硬く、速いグリーン、多くのハザード(バンカー、池、クリークなど)。それらを攻略するマネジメント力も必要になる。そして、最も必要なのは異国の地での適応力だ。米ツアーを主戦場にする選手でも、海外メジャーの緊張感に押しつぶされることがあるなか、日本勢の大半は前週のリゾートトラスト レディスを戦い終えての参戦。時差でコンディション調整が難しい状況下、海外メジャー初挑戦の竹田がトップ10入りを果たし、尾関彩美悠も36位と大健闘だった。

それは、各選手が地力をつけている証しだった。言い換えれば、「国内ツアーのレベル自体が世界最高の米ツアーに近づいている」。考えられる要因は以下の4点だ。

(1) 宮里 藍らへの憧れ 2000年代前半、10代だった宮里、横峯さくら、上田桃子、諸見里しのぶらの活躍で女子ゴルフブームとなり、彼女たちに憧れてゴルフを始めた子どもたちが切磋琢磨(せっさたくま)。ジュニア(高校生以下)のレベルが高くなった。

(2) 4日間競技の大幅増加 かつて国内ツアーは3日間競技が主流だったが、23年には4日間競技が年間の半数に達した。日常的にこのリズムを経験することで、4日間の海外メジャー大会にも対応しやすくなった。

(3) 大会コースセッティングの難化 国内メジャー大会だけでなく、国内の通常大会でも硬く速いグリーンの設定は多くなった。ピン位置は主に国内ツアー優勝経験のあるベテランプロが決めるようになり、選手に高い対応力を求めるようになった。

(4) 豊富な試合数 国内ツアーは年間37試合で3月から11月までは、ほぼ毎週試合が開催されている(米ツアーは33試合)。下部のステップ・アップ・ツアーも年間21試合開催され、若手が育つ環境が整ってきた。

また、2019年の規則改正によって「プロテストに合格するなどしてJLPGA(日本女子プロゴルフ協会)会員にならなければ、原則、協会関連の競技、試合には出られない」となったことも、レベルアップの要因と言えるだろう。毎年600人以上が受験して、合格者は1次、2次予選を通過して最終プロテスト20位タイまでの精鋭たち。合格率3%台の超難関を突破するために、ジュニア時代から「考えるゴルフ」ができる選手も少なくない。

国内ツアー6勝の西郷真央は20歳のとき、「グリーン近くの風向きが読めないときは、あえてボールをグリーンの手前に置いてアプローチとパットでパーを狙うこともあります」と話したことがある。このエピソードを聞いた宮里は「私が20歳の頃には考えらえなかったこと」と言い、師匠・尾崎将司にも「彼女のゴルフ脳はすごい」と言わしめている。

今では西郷だけでなく、そうした「ゴルフ脳」を含めた心技体が充実した選手が増えている。そして、厳しいコース設定のコースでも、ハイレベルな優勝争いを繰り広げている。

次の海外メジャー大会は全米女子プロ選手権(6月20日~23日)。夏にはパリ五輪もある。日本勢が、物おじして海外で力を発揮できなった時代は終了。ゴルフファンが寝不足になる日が、またすぐに来る。

>>ゴルフ女子プロテストは合格率2%台の可能性も……。有力選手も壁に阻まれる超難関のリアル。

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