お酒

日本のセンス、世界へ
OGATAが伝える日本の生活様式
【センスの因数分解】

2024.06.13

日本のセンス、世界へ<br>OGATAが伝える日本の生活様式<br>【センスの因数分解】
緒方慎一郎の描くビジョン具現化のシンボルともいえるOGATA Paris。17世紀に建てられた貴族の邸宅だった場所。東洋と西洋の交錯する場で食やお茶、フレグランスなど、五感を触発する体験を提供する。

“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。

20年以上前、目黒川沿いに間口二間ほどの小さな店がありました。ツタの絡まる建物に赤銅色の壁と白い暖簾(のれん)がひとつ。その構えは、この先に何が待っているのだろうという好奇心が勝った者だけを受け入れる結界のようでした。

2003年にオープンした和菓子店HIGASHIYAは、SIMPLICITY代表、緒方慎一郎さんの店でした。今は姿を消したこの店は、いわゆる皇室御用達系の老舗か地元の銘菓、もしくは町の気軽なおやつ店と、いずれも受け継がれてきたケースが大半であった和菓子の世界とは一線を画す新しい風でした。日本的でありながらモダンな息吹を感じるスタンドアローンは、その空間の美しさもあって菓子の世界を飛び越え、建築やデザイン、メディアといったクリエイターなどの心を大いにくすぐる存在でした。

その後、彼が生み出した店は銀座中央通りのビルや目黒の住宅街などに出現。いずれも共通する世界観がありました。まるで壮大なパズルのピースか、何かのゴールへの目印のように、紛れもなくあの目黒川の遺伝子が内包されていました。この流れの先に完成するパズルやゴールはあるのか……そんな疑問を長年抱いていました。

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Photo: Pierre BAËLEN

「私が目指しているのは、プロダクトや店の形ではなく生活様式です。若い頃から何が人間の心を、五感を満たすのか、それをずっと探っていました。そんななかで行き着いたのが、日本から生まれた様式美です。これこそが人間を満たすものだと考えています」

緒方慎一郎さんは、自身の会社であるSIMPLICITY1998年に立ち上げています。その頃にはすでに日本の生活における様式美を世界へ発信する、というビジョンを持っていたと言います。そしてひとつのシンボルとなる形が、このたびパリに完成しました。

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「現代のフランス料理のコースは懐石料理を無視して語れないように、日本から生まれた様式は、実は世界のあちこちに影響を与えています。これまで日本国内で専門性を追求してきたものを再構築し、世界へ発信する〝新たな様式〟として生み出したのが、OGATAです」

4年の工事を経て、20年に第1号となるOGATA Parisをオープン。パリの北マレ地区に茶房、酒房にレストランやブティック、ギャラリーなどの機能空間を擁した4フロアの館が完成しました。

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書籍『OGATA』はHIGASHIYA GINZAや八雲茶寮、オンラインショップで購入可能。
http://online.OGATA.com

昨年はOGATAのローンチを象徴する存在として、書籍『OGATA』をアメリカのリッツォーリより出版。緒方さんが四半世紀以上前に描いたビジョンは、新たなフェーズを迎えたのです。

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「何事においても、体験することが大切だと思っています。だからこそ、体験の場としての店をつくってきました。人は空間の気配を知らず知らずのうちに察知し、そこにふさわしい所作を選んでいくようなところがあるように思います。ここパリのOGATAでは、大変おしゃべり好き議論好きなフランス人が、中に入るとおのずと小声で話すようになります。このような自然に感じ取り、所作が変化していくような気づきとなる場は、(自分が店をつくる上で)ひとつ思い描いていたことだと思います。また日本でも展開されていましたが、ひとつの場ができることで、それまで縁がなかった共感覚を持つ人たちとの出会いが生まれます。OGATAは、自分が描いていたビジョンの集大成であり、シンボルと言える場所です。東京であった事象がパリで繰り広げられることで世界的に広がりを持てれば」

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HIGASHIYA GINZAは茶房の他に物販スペースがある。
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住宅街の屋敷をリノベーションした八雲茶寮では朝食や昼食も提供。ロケーションの妙は緒方とSIMPLICITYの個性のひとつだ。

東京でのごく初期から、緒方さんから生まれた店もプロダクトも、たたずまいが抱く気配は一貫しています。しかしそれに対する説明はありませんでした。ですから発信者の思いをくみ取ることは、受け手に委ねられてきたのです。新しい和菓子店の形と捉えたり、美しくラッピングされた造形であったり、茶を味わう空間の静けさであったりといった具合です。和とモダニズムの融合と捉える人もいたでしょう。しかし彼の思い描いていたパズルの完成形は、日本の生活様式の世界発信でした。古今東西を問わず、人間の心を満たすものとは何か。そんな一大命題と対峙し続け導き出した答えであるにもかかわらず、声高に語ることを避けてきました。そして店やプロダクトという形で伝える方法を選んだのです。

わずか数行で収まる行為のために、何十年の時間と数え切れないトライ&エラーが費やされたのかは、容易に想像できます。そうして長い時間をかけて成熟されていったゆるぎない決意は、パリの空の下、世界に向けて解き放たれたのでした。

パーク ハイアット 東京は、香港在住のジョン・モーフォードが生み出した無口で雄弁な美を抱くホテルとして、世界中の趣味人を驚かせ夢中にさせました。日本人の緒方慎一郎が生み出した、言葉でなく空間が生活様式の美へと導くOGATAが、これからどのように世界へ影響を与えるか。

言葉で通じ合うだけが、共有の術ではありません。感性で通じ合うということは、言葉を介さないだけにより自然でより深い理解に通じるのではないでしょうか。こんな時代だからこそ、OGATAが、世界を美しく変える一助となることを、願い信じたいと思うのです。

OGATA Paris
16 rue Debelleyme 75003 Paris, France
https://OGATA.com

「アエラスタイルマガジンVOL.56 SPRING/SUMMER 2024」より転載

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