週末の過ごし方
小松美羽の旅。
祈り、描き、つくりつづけた先にあったものとは?
【前編】
2024.06.18
アーティスト・小松美羽は、軽やかによく動く。向かう先は日本国内にとどまらず、遠い海の向こうにも。ご縁に導かれるまま、「アートは魂のくすり」と信じて。
光満ち風通るアトリエで、小松美羽は、また新しい扉を開けようとしていた。
長野県の北信地方にある坂城町(さかきまち)。上田市に隣接し、県内でも年間降雨量の少ない、つまりは晴れの日が多い自然豊かな土地。小松が生まれ、18歳まで暮らした町だ。そのふるさとに昨春アトリエを建て、創作活動の拠点としてスタートさせた。
この土地から作品を発信していこうと決めた理由をこう語る。
「30歳ぐらいのときに、タイで瞑想とかを学ぶようになって、祈ることは大切だなとなったときに、やっぱり、瞑想するには、自然の力であったり、山に住んでいる精霊さんであったり、そういう力を借りたり、チャンネルを合わせたりして、いろいろ知っていくことは大切だなと思ったんです。聖者のみなさんって、瞑想するときはやはり洞窟にこもったりする。空海さんにしてもそうですよね。
都会には、もちろんいい面もあるんですけど、悪い存在も多いので、まあ、誘惑も多いですし(笑)。タイの聖者からも『東京に住むことはいけないとは言ってない。ただ、そこで正しい学びができるならいいけれど、やはり自然の中のほうが学びやすいでしょう』と言われた。昔から自然の中にいるスピリットやエネルギーとかを感じたり、出合ったりしてきたことでいまの私があるわけで、やっぱりもう一度戻って、ちゃんと顔見知りの山たちともつながらなきゃと思ったんです」
アトリエは低山に囲まれ、また大きくあいた窓からは、遙か彼方に槍ヶ岳をはじめ北アルプスの山々の頂も望める。
そんな山々とつらなるイメージでアトリエはつくられた。無垢の木からなる高い天井と白い板の間。そこに完成した作品や描きかけの作品、真っ白いキャンバスが何枚も立てかけられ並んでいる。その中をアーティストは裸足で自在に動きまわる。創造の場としては、これ以上はないという理想空間だ。
小松美羽の一日は、この澄み切った場所での瞑想から始まる。
「瞑想室は、本当はアトリエの中にと思っていたんですけど、信じていない人がひとりでも来たりすると、なんて言うか、怒るんですよ。そこに住まわれている方が。瞑想室には神聖な存在をお迎えしていますので。昔は見せていたんですけどね。いまは、家の奥深くの暗い、人が通らないところで、ロウソクの光だけでやっています」
瞑想に入るアーティストは、目の前に一冊のスケッチブックを置いているのだという。
「心を落ち着かせてから、そこで見えてきたものをスケッチブックに描いたりもします。そして、たまに行き詰まるとそのスケッチブックの描きためた絵を見たりするんです」
瞑想を終えた小松美羽は、大きめのマグカップに入れたコーヒーを飲み、アトリエのキャンバスに向かいはじめる。朝食はとらない。
ちなみに、この日描いていたのは、台湾で4年ぶりに催される個展用の作品。昨年秋に、韓国やシンガポールでの展覧会に出品してしまったため、新作を30点ほど描かなければならないのだという。
昼食後は、再び創作に打ち込むが、3匹の犬の散歩はほぼ毎日の日課になっている。
11月を迎えると……
(後編は6月25日(火)に公開)
Photograph: Yuji Kawata(Riverta Inc.)
Text: Haruo Isshi