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食が文化へ昇華するとき
世界最高峰マグロの仲卸と考えるこれからのこと
【センスの因数分解】

2024.06.27

食が文化へ昇華するとき<br>世界最高峰マグロの仲卸と考えるこれからのこと<br>【センスの因数分解】
石司を訪れる客とコミュニケーションをとる篠田さん(左)。競りでの見極めだけでなく、客がどんなマグロを求めているのかを理解し判断するのも大切な仕事だ。

“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。

お正月の風物詩である豊洲市場のマグロ初競り。一番マグロがいくらでどこが競り落としたかは、多くのメディアが取り上げます。それと同時に、食料や環境問題を指摘されることも少なくありません。

豊洲市場で、天然の国産本マグロ(クロマグロ)のみを扱う仲卸業者・石司。その三代目・篠田貴之さんは、量という意味で言えば危機は脱していると言います。

「かつては扱えるマグロが無くなってしまうと思ったこともありました。今は天然本マグロ漁獲量に制限がかかったこともあり、漁師さんたちから(漁場に)マグロがいないという声は聞こえません」

現在水産庁は各都道府県の本マグロの漁獲高を制限しています。かといって、高級マグロの食糧問題が解決したわけではなさそうです。

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「漁獲量が決まっているので、表だって流通できない本マグロを裏で取引する業者もいるようです」

せっかく獲ったものを無駄にできないという心情もあるかもしれません。ではそんな業界の課題に対し、もっと小さなレベルで意識できることはあるのでしょうか。

「エンドユーザーの知識は上がりましたが、情報で食べている人が89割のように感じます。話題になる最高級のマグロは鮨店に行きますが、シャリとの相性が非常に大事。味にしても個性があり、それぞれの鮨店のシャリと合って初めてうまい鮨になります。自分の好みを知り、そして好みの店と出合う。これが長く良いマグロと付き合うことであり、鮨と付き合うことになると思います。またこれはわれわれの意識の問題ですが、マグロを最大限有効に活用する重要性もあるんじゃないでしょうか。国産本マグロは高級外国車ぐらいの値段がすることもあります。しかし捕獲の際のストレスなどが影響し、身がパサパサになることがあります。それをヤケるというのですが、ヤケたマグロは商品になりません。ストレスをいかに無くすようマグロを仕留めるかは大変重要です。多くないですがそういう研究をしている船もあります」

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最高峰の国産本マグロ。同じ産地や品種でも「やんちゃタイプと品行方正タイプ」と味わいには個性があるそうだ。

立派なものが捕れればいい、ではなく、その先のことまで見据えて漁をする船と、それを的確に店に卸す業者がいることで、廃棄になる食料がおのずと減るのです。

国産本マグロだけを扱ってきた石司は、マグロの未来と同時に、幸せな共存のための指針のひとつを教えてくれたのだと思います。

「アエラスタイルマガジンVOL.56 SPRING/SUMMER 2024」より転載

Photo: Akihiko Uzawa ©Ishij

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