週末の過ごし方
俳優・町田啓太と考える、装う美学。
エスプリ薫る「文月」のバスクシャツ。
【第二期】
2024.07.19
日本には四季折々に豊かな表情があり、それぞれにふさわしい「装い」がある。それは単に体感的な暑さや寒さをしのぐといった「機能」を追求するだけのものではなく、Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)、つまりはTPOにそぐうものであるべき。そして、そのことに通底するストーリーを理解し装うことは、正しい「大人のたしなみ」と言えるだろう。
本連載は、一年の12カ月それぞれに季節を意識したテーマを掲げ、大人の男にふさわしいスタイルを模索しようというもの。小誌が培ってきたTPOに合うトラッドスタイルの知見と、現代を代表するファッションアイコン=町田啓太の表現力とのコラボレートにより、アエラスタイルマガジン流現代版「服飾歳時記」(第二期)としてつづっていく。
“かわいい”だけじゃない、バスクシャツの着こなし。
今月は「海の日」にちなみ、マリンルックについて。もちろん、ひと口にマリンルックと言っても、それを象徴するアイテムはいくつもある。だがしかし、歴史的なスタイルセッターに偏愛され、それでいて老若男女問わずトライしやすいものと言えば、やはりバスクシャツにとどめを刺す。
このボートネックの横縞のシャツは、元々はフランスとスペインのビスケー湾に面した国境にあたるバスク地方で、16世紀ごろに地元の漁師たちが着用していた厚手の手編みセーターだったという。出自は“作業着”なのだが、1920~30年代には“ファッションアイテム”としてリゾートや街でも着られるようになる。その発端は、当時、フランスのアンティーブ岬に居を構えていたアメリカ人画家のジェラルド・マーフィーだそうで、以後、ピカソやウインザー公、G.P.ゴルチェなどなど、追随者が後を絶たない。
そんな洒落者たちに愛されるアイテムだが、町田啓太にとっては長らく「手を出しにくいもの」だったという。
「ボーダーという柄は、強い。その印象が人を支配する。ずいぶんと前、よくボーダーを着ていた時期があった。ただ、大人になるにつれ、その強さは自分にとってトゥーマッチな気がしてきた。あくまでも個人的なことだが、よく知るボーダー愛好家の“顔”をついつい思い浮かべてしまうことも、少なからず影響しているかもしれない」
ただ、その印象にも少し変化の兆しが見える。
「先日の旅で出会った、ベネチアの“ゴンドラ乗り”は本当にすてきだった。バスクシャツをサラリと着こなし、口笛をおもむろに吹きながらしなやかに船を漕ぐ姿が忘れられない。ゴンドラを作り、整備するアトリエを訪ねたことで、彼らのバックボーンを知れたことも良かった。もともとは山の民で、“石”ではなく“木”が文化の中心にあり、代々それを大切に受け継いでいる。そんな歴史に思いをはせ、彼らの真摯(しんし)な姿勢に尊敬の念を抱いた」
バスクシャツに対し、単に“かわいい”という印象をもつ向きは多い。実際、町田もそう思っていたようだ。ただ、今回の撮影で町田が着用したオーシバルのバスクシャツは、1950~60年代にフランス海軍の制服として採用された“本格派”の系譜を継ぐもの。決して“かわいい”だけではない。羽織るブレザーの胸元には、ベネチアのゴンドリエーレ(ゴンドラの漕ぎ手)を意識したバンダナ柄のスカーフを無造作に。肩にかけた色違いのバスクシャツと相まって、旅をたしなむ大人の“エスプリ”がキリリと際立つ。
「ボーダー柄も、こんな着こなしなら悪くない」
そうつぶやく町田が向かう次なる旅先は、水平線の向こうか、それとも……。サマーバケーションを前に、そんな妄想もまた楽しい。
FROM EDITOR
バスクシャツと聞いて思い出すのが、『LIPSETT BOOK A to Z for BON VOYAGE 旅と海をめぐる、26文字の冒険』(東京美術)という本に寄稿された山口 淳さん(1960-2013年)のコラムです。発祥国のフランスでは「バスクシャツ」だとまず通じず、ブルターニュ地方のマリンシャツを意味する「ブルトンマリン」と呼ぶのが一般的だということ。アール・デコの画家として評価されるジェラルド・マーフィーが希代の粋人で、アーネスト・ヘミングウェイ、コール・ポーター、F・スコット・フィッツジェラルドらにいかに影響を与えていたかということ。そもそもバスクシャツの出自自体に疑問点が多く、エスパドリーユの出自と混同されて伝わっている可能性があること……。2000字に満たない文章の中で、なんと“気づき”の多いことか! 淳さんとはよく中目黒のカフェで少しだけ仕事の打ち合わせをして、その後たっぷりとよもやま話に花を咲かせたものです。その経験は僕の財産。スタイルこそ異なれど、自分も若い世代に刺激を与えられる“あんな先輩”でいたい。写真(↓)では若者に寄りかかりきってヘラヘラしていますが(苦笑)、まだまだ精進したいと思います!
アエラスタイルマガジン編集長[雑誌・タブロイド] 藤岡信吾
町田啓太(まちだ・けいた)
1990年生まれ。俳優、劇団EXILEメンバー。映画『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』『太陽とボレロ』『ミステリと言う勿れ』、テレビドラマ『テッパチ!』(フジテレビ系)、『ダメな男じゃダメですか?』(テレビ東京)、『unknown』(テレビ朝日系)、『漫画家イエナガの複雑社会を超定義』(NHK)など話題作に多数出演。大河ドラマ『光る君へ』の出演も要チェック!
Photograph: Satoru Tada(Rooster)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up: KOHEY(HAKU)
Edit & Text: Shingo Fujioka(AERA STYLE MAGAZINE)