特別インタビュー
スローウエアの新CEOピエロ・ブラガ、
伝統のクラシック界に起こす新しい風。
2024.08.09
世界的なパンツブランド「インコテックス」やニット専門の「ザノーネ」、アウターの「モンテドーロ」、シャツの「グランシャツ」、4つの専業ブランドの集合体スローウエア(SLOWEAR)。1950年代のヴェニスにルーツを持ち、今ではミラノをはじめ、ロンドン、パリ、ニューヨーク、東京など、世界に30以上の旗艦店を構えている。早すぎる死を遂げた創業家2代目、ロベルト・コンパーニョ氏の跡を継ぎ、2023年に新CEO(最高経営責任者)に就任したピエロ・ブラガ氏は、青写真をどう描くか。
「2021年にロベルトが亡くなり、2年間リーダーが不在でした。私がCEOに就任し、まず取り組んだのは、会社にビジョンを示すこと。時計をリセットするような感覚で、スローウエアが培ってきた伝統やヘリテージ、ものづくりの情熱を取り戻すことから始めました。大きく変化させることを望んでいたわけではないですが、唯一変えたことは、これまでブランドごとに独立した組織だったのに対し、ブランド全体を見るMDをアポイントしたことです。ブランド全体のストーリーボードを作るためです」とブラガ氏。
“専業ブランド”というのは、文字どおり、ジャケットはジャケット、パンツはパンツ、シャツはシャツだけを専門に作るブランドのことを指す。ブラガ氏は、独立していたコレクション作りに横串を通すことで、スローウエア全体でのトータルルックでの提案を目指した。
「それぞれのカテゴリーを超えることで、相乗効果が生まれると考えました。そもそも、“スローウエア”とは哲学。スタイルや伝統を重んじながらも、エレガントで堅苦しくなく、それでいて長く使ってもらえるような普遍的なアイテム。それぞれのブランドがひとつのコンセプトを共有し、その集合体としてより大きな世界観を描いています。この哲学がスローウエアにとっての唯一無二の強みでもあるのです」と続ける。
コンパーニョ氏の遺志を受け継ぎつつも、ブラガ氏のもたらした新たな風は、着実に根付きはじめた。そして、昨今のクラシック回帰のトレンドを追い風に、今後の目標を見据える。
「コンテンポラリーなクラシックウエアを大切にしつつ、トレンドのシルエットを採り入れるなどして、若者を取り込んでいきたい。そのためには、メンズのレディ・トゥ・ウエア(既成服)の拡充とウィメンズの成長が急務だと考えており、新たなブランドを増やす可能性もあります。日本は1970年代に進出して以来、最も重要なマーケットのひとつ。ひとつのアイテムを大切に着つづける消費者の心理は、スローウエアのコンセプトにすごく合っていると感じています。今後も誠実なものづくりとオネストプライス(適正価格)を続けて、5年後に売上高2倍を目指します」
Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text:Text:Yuki Koike(VINYL)