週末の過ごし方
『ブラック・ダヴ』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #89
2025.01.16
国家や組織のために潜入調査や盗聴、暗殺や誘拐など、秘密裏に活動している“スパイ“。歴史や国際情勢が関わり、謎に包まれたCIA、FBIなど実際にある政府機関のストーリーも多く、心理戦や派手なアクションなど「本当にこんなことがあったのかもしれない……」と好奇心をくすぐられる作品も多く、不動の人気ジャンルだ。
Netflixにてこの冬登場した『ブラック・ダヴ』は、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのキーラ・ナイトレイと、『007』シリーズのベン・ウィショーによるスパイスリラー。表と裏の顔を持つ二重生活での葛藤、スパイでありつづけなければならない苦悩。なぜスパイに? 本当の自分とは? ドラマだからこその特性を生かし、キャラクターの繊細な心の揺れを描いた見応えのある作品となっている。
舞台はロンドン、国防大臣の妻であり、双子の母親でもあるヘレン(キーラ・ナイトレイ)は、保守党政治家の妻として献身的に尽くし、頼れる存在としてみんなに愛されている。しかし裏の顔は秘密組織「ブラック・ダヴ」のスパイとして活動し、国際問題をいち早く知れる夫から情報を引き出し、組織に流していた。
ある日、悲劇は起こった。周囲の人に気づかれぬようヘレンと不倫関係にあったジェイソンが、突然何者かによって殺害された。同時に、ジェイソンの友人2人も殺害される。ジェイソンは公務員、しかし明らかにプロの犯行。彼は何者なのか? なぜ殺されなければならなかったのか?
ヘレンが狙われていると読んだ「ブラック・ダヴ」の指示役リード夫人は、かつてヘレンとタッグを組んでいたサムを異国から呼び戻した。サムはあることがきっかけでロンドンを去り、世界を放浪していた。以前付き合っていたマイケルは、今どこでどんな生活をしている? そんなことを気にしつつ、サムは再びヘレンと組み、犯人の捜索を始めるが、その裏では思わぬ国際問題が勃発していた。
放送前からシーズン2の製作が決まっていたほど、このドラマに対する注目度は非常に高かった。だが、パイレーツシリーズや007シリーズでの活躍が脳裏に焼き付いているせいか、いい意味で期待は裏切られた。派手なアクションシーンはない。しかし、エレガントでスマート、それが妙にリアルに感じられ、緊張感が何倍にも増す。
絶妙なライティングと、たびたび見受けられるシンメトリーを意識した演出は、まるで表と裏の顔を持つヘレンとサムのようで、最高にスタイリッシュ。ラグジュアリーブランドのプロモーション映像のような世界観に、引きつけられるばかりだ。
ヘレンとサムは、かつて長い間手を組み活動していたのだろう。多くは語られないが、二人の関係に強い絆のようなものを感じることができる。これまでどんな出来事があったかは、物語を観進めていくうちに明らかになっていくが、過去を知れば知るほどこの二人の人間性に興味が湧いてくる。
スパイであれど、本当の自分でいられる場所が欲しい――。スパイにとって、その思いは命取り。幸せになってほしい! そう視聴者は願うが、彼らがこの世界から抜け出せるのは……しばらく先になりそうだ。
シーズン2が待ちきれない『ブラック・ダヴ』は、Netflixにてシーズン1(全6話)が配信中!
Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo