週末の過ごし方
金沢に出張、からの「ついで旅」Vol.2
朝アートに昼鮨に。不易流行の精神を学ぶ
2025.03.17

大人のファッション&カルチャー誌に金沢の魅力を伝えるエディターによる、出張ついで旅のVol.2。老舗を堪能した翌日は、朝から充実のプランを提案。新しもの好き、おもしろがりの金沢の意外な一面を体験してみよう!
独自の文化を築く、新しきをおもしろがる気質

©Kanazawa City
金沢は立地的にも、歴史的にも、関東、関西の両方の影響を受けている土地。それゆえ百万石を誇った江戸時代から伝統を大切にしつつも、外からの新しい刺激も客観的に見定め、吸収する余裕を持っている。現在もアーティストや職人が暮らし、ニッチ産業が盛んで、商店は個人経営が多いため、創造性豊か。金沢が注目されつづける裏には、歴史にあぐらをかかず、新しきを柔軟に取り入れる不易流行の精神があった!
Day2 8:00PM
「OMO5金沢片町」 棒茶の朝粥(あさがゆ)から、ずらしアート鑑賞へ
北欧風のナチュラル&シンプルななかに、金沢らしいアクセントを加えた「OMO5金沢片町」の客室。やはり夜も早い時間から活動すると充実感があるのに、翌朝カラダは軽やか。
暮らすように過ごせる「OMOハウス」。長期滞在にも。 各客室には、金沢らしい雪吊りを描いたクッションが。
朝食は1階の「OMOカフェ&バル」にて。3種類のリゾットなどからメイン料理をひと品選び、サラダやスープ、ヨーグルトなどはセルフサービスで楽しむスタイル。チョイスした棒茶餡と生麩のリゾットはオリジナルメニューで、金沢にありそうでなかった一品。香ばしい棒茶を煮出し、和風に味付けただしを餡にしてたっぷりと。それなりに飲んで食べた翌朝、胃腸にやさしい餡仕立ての味わいがうれしい。
棒茶粥。器とカトラリーは金沢の「Secca」デザインによるサステナブルなテーブルウェア 「エイラス」を使用。 「OMOベース」には片町のご近所マップとディープな情報が満載。飲食店やバーのほか九谷焼の店の案内も掲載している。
食後は予約していたホテルの無料のアクティビティ「金沢21世紀美術館お散歩ツアー」の集合時間8:45AMまで、「OMOベース」でおみやげを物色。そこで目に留まったのは、日本の伝統工芸品から黒のみで再編集したライフスタイルブランド「#000 BLACK KOGEI」。優美なイメージの工芸が黒でまとめるとぐっとスタイリッシュに。昨晩カフェを飾っていた加賀水引の老舗、津田水引折型五代目、津田六佑さんによるプロジェクトなのだそう。

金沢21世紀美術館と熟考したという「OMO5金沢片町」のアクティビティは、OMOレンジャーと呼ばれるスタッフのアテンドで。この日の担当は金沢が好きすぎて、移住した金沢愛あふれるOMOレンジャー。かいわいの歴史なども伺いながら、徒歩で10分ほど。
美術館への理解が深まる、OMOレンジャーの丁寧な解説。 2027年5月からは修繕工事のため休館。今のうちに訪れたい。
実は金沢21世紀美術館は屋内外に無料で鑑賞できる作品も多く常設している。それらを来館者も増える日中時間を避け、朝の静かな時間にゆっくり鑑賞してもらおうという“ずらし鑑賞”の取り組み。ひとりだと難しい、作品と一体化したベストアングルの写真も撮影も手伝ってくれる。再訪だとしても、朝のアート鑑賞は新しい発見があるはず。

©︎Kanazawa City
当時はまだ伝統を重んじる論調が強く、伝統の街に、現代美術を扱う斬新な美術館を開館するための道のりはなかなか困難だったという。しかし新しきを取り入れ、昨年20周年を迎えた。街に開かれた美術館として、すでに金沢市民の誇りともなっている。
OMO5金沢片町
石川県金沢市片町1-4-23
営業時間:050-3134-8095(OMO予約センター 9:30~18:00)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/omo5kanazawakatamachi/
Day2 10:00AM
「logic」 朝の一杯は地元名店の自家焙煎コーヒーで
そのままホテルに戻らずひと休み。おいしいコーヒーを求めて、美術館近くにあるブルーをアクセントにしたカフェ「logic(ロジック)」へ。ここは西川開人さんが営む、地元の人気パティスリー「remref(レムレフ)」の姉妹店。2023年秋のオープン以来、多くの人でにぎわっている。カウンターを見ると、なんともおいしそうなドーナツの誘惑が!
カウンターや階段など、ブルーを基調にしたデザイン。 定番のシュガードーナッツなどのほか季節のドーナツも。
しかしランチまでの時間を考え、コーヒーをいただく。浅煎りコーヒーで知られる、金沢のtownfolk coffeeの自家焙煎豆ほか数種をラインアップ。2階のスペースからは窓越しに金沢21世紀美術館を見ることができ、コーヒーを片手に違ったアングルから建築として眺めるのも新鮮だ。

logic
石川県金沢市広坂1-2-13
営業時間:10:00~16.:00
休:月曜、火曜
Instagram @logic.kanazawa
Day3 12:00AM
「鮨いくた」 魚愛に満ちた店主による洗練の味
チェックアウトを済ませたら待望のランチ! 金沢を訪れたなら外せないのは鮨。ただ高級店は夜のみの営業が多く、昨今はかなり前からの予約が必須。そんな状況ながらホテル近くの「鮨いくた」は、ランチも営業している貴重な店。店主の生田 崇さんは名店「鮨 みつ川」で研鑽(けんさん)を積み、系列の「歴々」を任され、4年半ほど前に独立した若き精鋭。趣味は釣り、と言うだけあって、とにかく魚愛にあふれている。

カウンターのみ8席というこぢんまりした店舗は、次々と提供されるつまみや握りに集中できる清潔感のある空間。金沢の食を語るとき、藩政時代からの料理、器、空間すべてに美意識を行き渡らせる料亭文化の影響を忘れてはならない。この店も一品一品、こだわりの器で供され、どれもとても趣味がいい。
今回はつまみ3品と握りのコースをオーダー。クエをアラと呼ぶ九州のそれとは異なる魚種、地元の高級魚、アラのお造りから。白身ながら弾力があり、期待が膨らむ味わい。器は藍九谷の名工、山本長左氏に師事した銀泉窯の三浦晃禎氏の九谷焼。王道のなかに軽やかさがあって、お造りがいっそう上品に見栄える。続いて賽の目切りにした地元の梨、秋月を合わせた生イクラは、美しい切子ガラスの器で。生ハム×メロンを思わせる塩味と甘味のコントラスト。ほかには炒りたてのゴマが香る炙(あぶ)りカマスのひと品も。
アラのお造り。今回の昼のコースは¥11,000。握りのみ¥7,700も。 生いくらとフルーツという和食では新鮮な組み合わせ。
昼といえども、このつまみには日本酒が不可欠。石川県は多くの酒蔵を有するが、店主のおすすめから選んだのは白山市・車多酒造の「天狗舞 白HAKU-LABEL 山廃大吟醸」。2023年に創業200年を迎えた蔵伝統の山廃仕込を、次世代が新たな感性で進化させた一本。山廃は濃厚さが重く感じるものもあるが、こちらはまろやかさが際立つ味わい。すいすいと杯が進んでしまう危険なタイプ! ワインを味わう時のような、専用のショートステムのグラス推奨なのもうなずける。
一般流通はしてない貴重な日本酒を味わうのも格別。 店主の生田 崇さん。自身が釣った魚をネタにすることも。
いい感じの助走をつけて、本番の握りに突入。まず一貫目はアジからスタート。無類の光りもの好きにとって、つかみは上々。老舗ヨコ井の赤酢を使用したシャリと、丁寧に仕事を施したネタとのバランスも計算されている。細やかに包丁を入れ、糸づくりにしたアオリイカはねっとり感が倍増。合間に青シソの芳香をまとう、あとを引く味わい。肝を添えたカワハギ、マグロ、煮貝など、握りと巻物1品を含め全9品。
握りも九谷焼の器に。これから旬を迎えるガスエビ。 金沢ではおでんのネタとしても人気のバイ貝の握り。
必食は初夏までが旬のガスエビとバイ貝。足が早く県外には流通できないガスエビは、甘エビよりもやや大ぶりで濃厚。そして金沢ではめでたいことが倍になると、縁起物としてもよく食されるバイ貝。こちらは通称白バイ貝と呼ばれるエッチュウバイで、コリコリとした歯触りが特徴。どちらも思わず「もう一貫!」とリクエストしたくなること請け合いだ。
緊張してしまうような鮨屋にはどうも足が向かない。この日、カウンターを共にした外国人客に、スマホを駆使しながら丁寧に魚の説明する店主の真摯(しんし)な姿が印象的だった。忙しいなかでも他店のもてなしも学ばれており、その探究心にも好感が持てる。基本がありながら、そこに個性を表現しようと切磋琢磨(せっさたくま)する次世代がいるから金沢はおもしろい。
鮨 いくた
石川県金沢市片町1-4-4
076-254-1422
営業時間:12:00~14:30 18:00~22:00
不定休
Instagram @sushi_ikuta
取材協力:金沢市観光協会
https://www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp