週末の過ごし方
「美しい仕事」は世界を変える。
2025.06.18

『チ。 ―地球の運動について―』 が、アニメ化をきっかけに話題になっている。作品では、出会いによって大きく変わる人生を描いている。中心になるのは天動説を捨てて地動説を追う人々だ。その信念を後押しするのが「美しさ」。地動説の天体軌道は、太陽を中心に楕円が連なりシンプルで「美しい」というのだ。確かに自然の理は美しい。
西洋には「黄金比」という比率がある。パルテノン神殿からクレジットカードの寸法まで、「黄金比」によって「美しさ」を表してきた。一方、日本では「白銀比」が好まれてきた。正方形とその対角線の比率をつかった「白銀比」は、法隆寺五重塔から、現代でもA判・B判の用紙サイズやドラえもんのキャラクターデザインにまで浸透している。
驚くことに、俳句や短歌の「5・7・5」や「5・7・5・7・7」という音数によるリズム構成にもこの「白銀比」がみられる。ここからわかるのは、私たちが「美しさ」を感じるのは、視覚的なバランスだけでなく、その奥にある「自然の生きた律動」と一体になるときだということ。現代において海外から日本人はアンビエント(環境の)音楽が得意だと見なされているのは、それが理由かもしれない。
では、「仕事」に「美しさ」は、あり得るのだろうか?
ふだんの仕事の場面では「この仕事は美しい!」とは、なかなか出てこないのが普通だろう。しかし、ちょっと想像してみてほしい。美しい売上、美しい仕組み、そして、美しいビジョン。もし、仕事に「美しさ」という軸を入れてみると、おもしろい。人を超え、意思を持って動く生命体としての仕事が浮かび上がってくる。
会社の「美しい仕組み」は、人体のように互いに情報を共有しながら連動して代謝と排出を行うシステムとして、考えることができるかもしれない。美しく上がる売上は、提供する側とされる側の豊かさが、同時に実現しているイメージができる。しかし「美しい仕組みと売上」だけでは、他の軸と「美しさ」を置き換えたにすぎない。真に「美しい仕事」には、世界を変えるほどの力がある。茶の湯の簡素な美が、精神の充足という尊さで世界中の人々を魅了したようにたった一杯のお茶を点(た)てるだけで、それを可能にする文化を持っているのが日本なのだ。
Text: Sayaka Umezawa(KAFUN INC.)
Photograph: PIXTA