特別インタビュー
板垣李光人、魅惑の混沌都市へ。
多様な感性が融合する、 バンコクを呼吸する[後編]
2025.11.17
二百数十年の歴史を刻むバンコク。そのコントラストの激しい「新旧」を吸い込み、気鋭の俳優は何を感じたか?
板垣李光人に誘われ、魅惑の混沌都市へと没入する──。
立憲君主制のタイ王国。チャクリー王朝の初代国王、ラーマ1世は新たな首都に定めたバンコクに希望を込め「天使の都(クルンテープ・マハナコーン)」と名付けた。この古名は、誇りと尊敬の下、今も国民に受け継がれている。
初代から約250年の時を経て現在はラーマ10世の御代。特にバンコクは急速な進化と発展を重ねている。好景気に乗ってマハナコンタワーを筆頭に、決して日本では見ることのないようなデザイン性あふれる高層ビルが立ち並ぶ。さらに巨大複合施設、ホテルにレジデンスが増え、日々景色が変わっていく。一方、伝統と歴史をいまに伝える王宮や無数の寺院も共存している。新旧の文化は、宝石のようにきらめき、ひしめき合い、いわばミュージアムのような都市と言えよう。
この変容の時代、タイ在住のアーティストにとってバンコクはキャンバス。昨今、タラートノイと呼ばれる古くからある中華系の人々のコミュニティが人気観光スポットになっている。鮮やかで力強いタッチの絵で古い壁が埋め尽くされ、自国の文化を発信する。
「ビル群のなかに社寺が存在するのは東京との共通点ですが、文化のコントラストが激しいのがタイ。混沌とした雑踏や路地裏に突如、絢爛(けんらん)たる仏閣やワット・パクナムの巨大黄金仏が出現する。言葉にすると鎌倉のイメージに近いかもしれませんが世界観も色も、たたずまいも違う。ただただ、畏敬の念を感じ、圧倒されました」
そんな風景を背にカメラに向かう板垣の姿は、異国人ながら自然。街の息吹を呼吸し身体に取り込むと、パチンとスイッチが切り替わる。時に無垢で、妖艶で、心身を使って彼だけの「天使の都」を描く──。結論として、板垣李光人とタイの相性は良好。同地に興味を持てなかった旅人さえ、この魅惑の混沌都市へ引き寄せる。
板垣李光人(いたがき・りひと)
2012年に俳優デビューし、映画『八犬伝』『はたらく細胞』『陰陽師0』で第48回日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞。カンテレ・フジテレビ系ドラマ『秘密~THE TOP SECRET~』ではゴールデン帯連続ドラマ初主演を果たす。現在放送中のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』、公開中の映画『ミーツ・ザ・ワールド』のほか、映画『ペリリュー -楽園のゲルニカ- 』(声の出演)が12月5日(金)に公開予定。
Photograph: Yuji Kawata(Riverta.inc)
Styling: Kohei Kubo(QUILT)
Hair & Make-up: Jimi Fujiu
Text & Coordinate: Satsuki Izumi