週末の過ごし方
躾の良い不良たち――
『BALLET TheNewClassic』が切り拓く、新しいバレエのかたち。
2026.04.24
K-BALLET TOKYOの最高位であるプリンシパルとして活躍したバレエダンサーの堀内將平と、写真家・井上ユミコが手がけるバレエのガラ公演『BALLET TheNewClassic』(バレエザニュークラシック)。過去2回の公演はいずれもチケット完売、批評面でも高い評価を獲得してきた。そして第3弾となる今回、7月に新国立劇場の舞台へ進出する。
バレエを取り巻く環境の現在地
日本では、バレエダンサーがアルバイトをしながら活動を続けることが珍しくない。華やかな舞台の裏側で、多くのダンサーが現実的な制約と向き合っているという。
一方、ヨーロッパではダンサーがファッションブランドのモデルやイベントに起用されるなど活動の幅は広く、社会制度や市場環境の違いもあり、踊ることを軸に生活を組み立てられる状況も見られる。同じ水準の技術を持っていても、置かれた環境によってキャリアのあり方は大きく変わってきてしまうのだ。
こうした構造的な課題に風穴を開けてきたのが、K-BALLET TOKYOプリンシパルとして活躍し、プロデュースも行う堀内將平と、写真家の井上ユミコ。二人が発起人となり2020年にスタートした『BALLET TheNewClassic』は、2022年の初公演(恵比寿ガーデンホール/全5公演)で2,575席、2024年の第2弾(新国立劇場 中劇場/全4公演)で3,776席を完売。批評面でも評価を得てきた。
そして2026年7月30日から8月2日にかけて、新国立劇場・中劇場で全6公演を開催する。テーマは『躾の良い不良たち――それは洗練という名の反逆』。プロジェクトは次の段階へ進もうとしている。
外部の視点が常識を揺さぶる
『BALLET TheNewClassic』は他のバレエ公演と一線を画してきたのだが、それは演出や照明の斬新さだけではない。プロデュースをする堀内に聞くと、核心にあったのは業界の常識を知らない人を意図的にチームに引き込むという、逆転の発想だった。
「バレエを知っているのが僕で、あとのクリエイターチームはバレエに詳しくない人たちが中心です。バレエをわかっている人たちだけで作ると、固定概念の中に囚われてしまう。それを壊すためにも、業界を知らないメンバーと一緒に創作することが刺激になっています」
異分野のクリエイターが加わることで、「なぜ照明は舞台全体を均一に照らす必要があるのか」「なぜチラシのキャッチコピーは定型的な言葉に収まりがちなのか」「衣装の丈はなぜこの長さなのか」といった、業界内で前提とされてきた問いが立ち上がる。
ただし、それは単に既存のものを破壊することではない。今回のテーマ『躾の良い不良たち』が象徴するのはまさにそこだ。
「知性があって、洗練されていて、その上で壊せる人でないと、次のステージには行けない」と語るのは、クリエイティブディレクションを務める井上。バレエという250年以上の歴史を持つ芸術への深いリスペクトがあるからこそ、その解体と再構築に意味が生まれる。
美しさが届いていない
井上がバレエの世界に関わるようになったのは2019年。パリ・オペラ座の首席ダンサーたちの取材に同行したことがきっかけだった。
「目の前で踊るダンサーの肉体を見て、私が思っていたバレエのイメージが覆されました。意識が体の末端まで行き届いていて、こんな芸術が世界にあるのかと衝撃を受けたんです」
しかし、次に日本のバレエ公演へ足を運んだときに感じた違和感が、のちのプロジェクトの原点になる。
「フォトグラファーの視点からすると、光は造形を映し出す最重要の要素。でも日本の舞台はフラットに見えることが多く、彼らが何年もかけて磨いてきた肉体の美しさが十分に見えてこなかった。美しさがお客さんに届いていない。それが悔しかったんです」
一方、9年間の海外生活を経て帰国した堀内には、ダンサーの社会的ポジションに課題を見ていた。
「海外ではラグジュアリーブランドがバレエダンサーをモデルとして起用し、イベントで踊るのも一般的です。それがダンサーの社会的地位を押し上げています。一方の日本ではそこまでの位置に至っていない。収入面で厳しい状況があっても『国からの補助がないから仕方ない』と語られることが多いんです。でも、それで終わらせてしまえば何も変わらない」
その言葉を裏づけるように、『BALLET TheNewClassic』の試みは着実に広がりを見せている。堀内自身がMISIAのライブツアーやカルティエのイベントでは振付も手がけた。さらに今回の公演では、ポーラがバレエ公演としては初めてメインスポンサーに名を連ねている。
「重要なのは、かっこいい公演を作り続けること」と堀内。そうした積み重ねの先で、日本のバレエは外の世界と結びつき、その可能性を拡張している。
AIとバレエの融合
2026年の演目では、名作バレエ『コッペリア』の現代的解釈だ。原作は、機械仕掛けの人形に恋をする青年の物語。それを現代に置き換えると、「AIとの恋愛」というテーマが浮かび上がる。
脚本の一部をAIに生成させるという試みも行い、上がってきたテキストにチームが感動したという。テクノロジーをテーマにするだけでなく、制作プロセスそのものにも取り込む。それが『BALLET TheNewClassic』らしい一手だ。
衣装監修はファッションスタイリストが入り、セントラル・セント・マーチンズ出身のKAKAN、メゾン マルジェラ出身のmister it.がデザイン。バレエの衣装は250年前のロマンティック・バレエの時代に原型が完成したともいわれているのだが、その文法の上に、現代のファッションデザイナーの感性が乗る。
キャスティングにも新たな発想が光る。本来16歳の少女が踊る「眠れる森の美女」の名場面・ローズアダージョを担うのは、K-BALLET TOKYOの名誉プリンシパル・中村祥子(46歳)だ。「年齢やジェンダーで役を固定することは、バレエの可能性を狭める枠組みに当てはめる作業でしかない。今の中村祥子にしかできない表現を見ていただきたい」と堀内。
さらにボルドー・オペラ座バレエ団エトワールの太田倫功、ベルリン国立バレエ団プリンシパルの佐々晴香ら、世界で活躍するトップダンサーたちがこの公演のために集結する。
観客を「共犯者」に
これまでの2公演はクラウドファンディングによって資金を調達してきた。今回『BALLET TheNewClassic』が新たに導入したのが「個人スポンサー制度」である。これは協賛金額に応じて、最終リハーサルの見学やダンサーの撮影現場への参加など、制作プロセスに直接関われる仕組み。観客でありながら、ともにつくる側へと足を踏み入れられるため、その体験そのものが新しい楽しみ方として機能していきそうだ。
「エネルギーの掛け算が起きる瞬間を見るのが大好きなんです」と井上は言う。「ダンサーも、デザイナーも、制作スタッフも、みんなが自分のフィールドを全力で持ち寄った時にバチバチとはじける。あの瞬間が、この公演の本質だと思っています」
『BALLET TheNewClassic』をきっかけに、堀内の役割はダンサーにとどまらなくなった。経営、そしてプロデュースへと領域を広げている。「以前はバレエ公演に行っても、目に入るのはダンサーだけでした。今は作品の構造や客層、チラシのデザインまで含めて全体を見るようになった。見えている景色がまったく違います」
一方、井上はこれまでの変化を別の角度から捉える。「見え方が変わったというよりも、自分のビジョンに引っ張られている感覚に近い。バレエはまだこんなものじゃない、という確信がある。その先にある景色をすでに見ている気がしています」
二人が仕掛ける舞台の先に、日本発のバレエが世界へ広がる兆しが見え始めている。
POLA presents BALLET The New Classic 2026
日程:2026年7月30日(木)〜8月2日(日)全6公演
会場:新国立劇場・中劇場(東京都渋谷区本町1-1-1)
主な出演者:太田倫功、佐々晴香、ソ・ユンジョン、中島瑞生、中村祥子、南江祐生、三森健太朗、三宅咲末、横山瑠華、吉山シャルル・ルイ、アンドレア 他
クリエイティブディレクション:井上ユミコ(ALEXANDRE)
プロデューサー:堀内將平(New Classic)
Photograph: Takashi Sakamoto
Text: Tomoko Komiyama