スーツ
スーツがつくる陰影を楽しむ。
【春の到来、スーツの美学。】
2026.04.27
新しい季節の始まりに、スーツの気分が高まる。
それも、ビジネスから離れたプライベートタイムに。
スーツを自由なマインドで着こなして、
新たな自分との出会いを楽しみたい。
ミッドセンチュリー様式にデザインされた邸宅のプール。これで大きな水しぶきが上がったとすれば、画家デイヴィッド・ホックニーがアメリカの西海岸で描いた「A Bigger Splash」を思い起こさせる。
クッキリと影を作る日差しは、春を通り越して早めの夏のようにも感じられる。こんな季節にも、スーツを着るしゃれた男でありたいと思う。旅先のリゾートで、週末に訪れるレストランで。旅情や食事だけではなく、装うことも存分に楽しみたいものだ。
リラックスした開襟シャツをスーツに合わせるのは、小津安二郎の映画の例を引くまでもなく、かつての日本男児が得意とした着こなし。同系色のストールを首元にサラリと巻くのは、イタリアのデザイナーたちが1980年代に提案したエレガントを再現しているように見える。いまっぽく、素材のシャリ感が涼しいニットを合わせるのもいい。スーツにはタイドアップといった習慣から解き放たれて、自由に考えるのが楽しい。
ビジネスにスーツを着用するのもいいだろう。時代を問わず、季節を問わず、「相手に信頼される」という観点から装いを考えるとき、スーツに勝るものはないのだから。
ジャケットとパンツがひとそろい。スーツをそのように定義すると、どれも同じように見えて、シルエットや素材の微差を見つけるのが難しく思えるかもしれない。それでも、袖を通してみれば、ひとつひとつのスーツに違いがあるのがわかる。着るスーツやコーディネートによって、人となりに陰影が生まれる。
先述したデイヴィッド・ホックニーの大きな展覧会を、見たことがある。1960年代から絵を発表している彼は、88歳になった現在も、絵を描きつづけている。いま創作の拠点としているフランスのアトリエの窓から見える風景を、毎日描きつづけた連作の絵に驚かされた。同じ風景のように見えて、季節で、時刻で、天候で、その陰影が少しずつ変化していたのだ。
さて、あなたが着るスーツ、あなたが立つ景色。そこには、どんな陰影が現れるだろうか。それを楽しむ余裕を、いま持っていたいと思う。
山本晃弘 アエラスタイルマガジン エグゼクティブエディター 兼 WEB編集長
Photograph: Masanori Akao(whiteSTOUT)
Styling: Masayuki Sakurai Hair:
Yutaka Kodashiro(mod’s hair)
Edit & Text: Kenji Washio