週末の過ごし方
建物に刻まれた歴史の余韻も味わえる、ストックホルムのスモールラグジュアリーホテル2軒。
2026.05.25
スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(以下SLH)に加盟するホテルを巡る旅。フィンランドの次に訪れたのはスウェーデンだ。
ヘルシンキ・ヴァンター国際空港からフィンエアーでわずか1時間強。あっという間にストックホルム・アーランダ国際空港に到着した。
空港からはアーランダ・エクスプレスに乗り、およそ20分でストックホルムの中央駅にたどり着く。そこからタクシーで10分ほど走ると「バンクホテル」が目の前に。
タクシーの車窓から見えるストックホルムの街並みは、都会的な洗練さをまといつつも、中世の面影を残したクラシックモダンな雰囲気。まるで、いつからか時が止まっているかのようだ。
そんな街中に溶け込みながらも、しっかりとした存在感を放つ「バンクホテル」は、その名前が示唆するように、もともと銀行だった建物をリノベーションして造られたホテルだ。
ホテルのエントランスとは思えない重厚なブロンズ製の扉からして特別感たっぷりで、その先に広がる内部への期待に胸が高鳴る。
館内に入ると、壁や柱、扉などひとつひとつが味わい深く、この建物が歩んできた歴史を物語る。
クラシカルなたたずまいの館内には「エレガント エッセンシャル」や「エレガント クラシック」、「ストックホルム タウン スイート」、「バンク ルーフトップ テラス スイート」など11カテゴリーに分けられた客室があり、そのうち6カテゴリーはスイートになっている。宿泊の目的に応じて部屋を選択できるため、非常に使い勝手が良い。
すべての客室は、明るくナチュラルな色調でまとめられ、鉄やガラス、木材、大理石などアールヌーボー様式を象徴する素材が、建物の豊かな歴史とモダンな設備に美しく調和している。
今回宿泊した部屋は「グレイスフル デラックス シグネチャー」。ゆったりとした広さに加えて、ディテールにもこだわったぜいたくな空間が特徴のダブルルームだ。
室内では、デスクのあるワークスペースで急ぎの作業を行えたり、ひとり掛けソファが2脚並んだサイドテーブル付きのシーティングエリアで、コーヒーを飲みながらひと息つけたり、有意義な時間を過ごすことができる。
バスルームには特注の大理石製洗面台があり、両サイドにライトのついた、いわゆる女優ミラーによって、身支度をスムーズに整えられるのもうれしい。
大きな窓からはヴィンテージとでも呼びたくなるような、味わい深い街の風景を眺めることができる。室内に居ながらにしてストックホルムの街の雰囲気を感じられる点もありがたい。
ホテルの1階にはレストラン「ボニーズ」がある。かつて銀行ホールだった開放感たっぷりの空間がモダンに生まれ変わり、宿泊客はもちろん、地元の人たちからも愛されている場所だ。
天井が高く、荘厳な照明によって照らされた館内は、まるで舞踏会でも開かれそうな雰囲気で気分が上がる。
「ボニーズ」は、朝食に始まり、ブランチ、ランチ、ディナーまで、アイドリングタイムはあるものの、ほぼ一日中利用することができる。
朝7時からの朝食タイムでは、ビュッフェスタイルに加えて、アラカルトでの注文も可能だ。日本でなじみのあるメニューも多いが、味わいには個性が感じられた。
例えば、スクランブルエッグは、ベイクドトマトの弾力のある食感やニンニクの利いたグレモラータソースが食欲をそそるし、ライ麦パンの上になめらかなアボカドがのったサンドイッチは、クリームチーズのほのかな酸味に加えて、中東のミックススパイスとして知られるデュカのスパイシーな風味が全体を引き締めていた。料理からも異国情緒をたっぷりと感じられ、旅の気分がグッと上がる。
ランチでは、前菜、メインコース、日替わりの特別なメニューが用意され、いつ行っても飽きることがない。土日限定のブランチに登場するベーグルステーションや豊富なデザートも魅力。
明るさを落としたムーディーな雰囲気でのディナーは、自然と特別な気分になれる。旬の食材を使ったメニューは、朝食からも感じられるように国際色豊かで、内容は季節によって異なる。最新のメニューは公式ウェブサイトでも紹介されているので、事前にぜひ参考にしたい。
食後はレストランの隣にあるバー「パピヨン」へ。名前はフランス語でチョウの意味。これは元銀行頭取がチョウを好きだったことに由来する。
内装は頭取のオフィスからインスピレーションを得てデザインされていて、マホガニーの壁とカーペット敷きの床に品格が漂う。
「パピヨン」では独自にアレンジされたクラシックな定番カクテルや新たに考案されたオリジナルカクテルをはじめ、さまざまなカクテルが用意されている。午前11時から営業しているため、メニューにはタルタルステーキやハンバーガーなどもラインアップ。ランチから軽食、メインコース、デザートまで楽しめる。
通りに面した窓からは、道行く人々の姿を眺められるのも良い。ストックホルムにはスタイリッシュな人が多く、日常のなんてことない風景も、映画のワンシーンのように感じられる。
「バンクホテル」の最上階にはカクテル&テラスバー「ル・イブー」がある。パリの高級スイートルームをイメージしたエレガントなインテリアや、最上階ならではの素晴らしい眺望が魅力で、地元のイケてる人たちも遊びに来る場所だ。特製カクテルを楽しみながら、ストックホルムの流行を肌で感じられる。
おいしい食事やお酒が楽しめる「ボニーズ」、「パピヨン」、「ル・イブー」を擁し、外に出れば、王立公園や絶景が望める湾岸エリアにほど近く、周辺には美術館も点在する絶好のロケーション。ショッピングに最適な繁華街だって徒歩圏内にある。
館内と街中を自由に行き来しながら、ストックホルムを余すところなく満喫する拠点として、まさに絶好のホテルが「バンクホテル」なのだ。
バンクホテル
https://slh.com/hotels/bank-hotel
なにげない日常のような時間を最高のぜいたくに変えてくれる、
理想の暮らしのお手本にしたいホテル
次に向かったのは「バンクホテル」からタクシーで12分ほどの距離にある「エトヘム」だ。スウェーデン語でホームを意味するホテル名に象徴されるように、建物はもともと1910年に建てられた個人邸宅で、リノベーションによってホテルへと生まれ変わった。
客室数は25室で、そのうちスイートが12室。館内には客室以外の部屋もたくさんあり、リビングでは宿泊客が思い思いにくつろぐことができる。その側にはセルフで楽しめるミニバーもあるので、飲みたいものを飲みながら、本を読むのもよし、友人と語らうもよし。居合わせたほかの宿泊客と談笑することだってある。
椅子が好きな人であれば、“パパベア”の愛称で人気のPP19や、“ママベア”と呼ばれて親しまれているC78など北欧を代表するデザイナー、ハンス・J・ウェグナーの名作ラウンジチェアに座ってのんびりできるのもうれしい。
館内はグルーヴィーなサウンドで満たされていて、居るだけで気分が上がる。心なしかスタッフもノリノリで仕事をしているように感じた。宿泊時は、マリーナ・ショウの「LET’S WADE IN THE WATER」やリトル・ビーバーの「Concrete Jungle」などが流れていたので、ぜひこれらを聴いてみてほしい。「エトヘム」の雰囲気をうかがい知ることができるはずだ。
館内にはリラクゼーションルームやジムもあり、自由に使用することが可能だ。さらには毎日ヨガクラスが開催されているほか、マッサージやハマム、ピラティス、パーソナルトレーニングなどを受けることもできる。
ライブラリーには写真集やデザイン関連のビジュアル本も多く並び、それらを読んだり眺めたりしながら過ごすのもいいだろう。
旅先では日常とは異なる感性が刺激される。普段であれば手に取らない本のページをめくってみることで、セレンディピティのような出合いだってあるかもしれない。
建物と建物の間には中庭があり、昼は青空、夜は星空の下で心身を解放して過ごすこともできる。特に春から秋にかけては、最高にリラックスできる場所になるはずだ。
また館内に飾られた古今東西のさまざまなアートやオブジェも見どころのひとつ。人生の瞬間を彩る、実在の物語や歴史を持つものが多く、こけしや日本人作家の作品も飾られていた。
今回宿泊した24号室は、白を貴重としたクリーンな内装ということもあり、気持ちよく過ごすことができた。部屋のミニバーには飲み物やスナック類が豊富に用意されているが、ゆっくり過ごしたいときは、館内のリビングでほかの宿泊客と同じ時間と空間を共有することこそ「エトヘム」の醍醐味(だいごみ)だと感じた。
部屋にはバルコニーがあり、椅子に座りながら、周囲に並ぶレンガ造りの建物を眺めたり、中庭を見下すことができる。窓から室内に差し込む太陽の光も心地よい。
「エトヘム」では、食事はキッチンで提供される。通常のレストランであればオープンキッチンのカウンターに値するような、調理の様子を目の前で眺められる席もあり、ライブ感たっぷりに楽しめる。
手際よく作業する様子を見ながら、次はどんな料理が出てくるのだろうとワクワクしながら待つ時間は、しあわせそのもの。
今回座った厨房前の席の上には花瓶やキャンドル、書籍などが無造作に置かれていた。このテーブルコーディネートは厨房と客席の間に境界線を引く役割を果たしているのだが、このスタイリングを物語の世界のようにとらえて楽しむこともできるし、雑多な感じだととらえて、気心知れた友人の家のようにリラックスすることもできる。
地元の旬の食材を使った料理は、家庭料理のようなハートウォーミングなニュアンスを感じる盛りつけで提供され、その味わいは独創的で洗練されていた。
出てきた料理は全7皿。量も大満足の内容で“たくさん召し上がってくださいね!”と言われているような、おもてなしの気持ちを感じた。
「エトヘム」で過ごす時間は、リビングでくつろぐ、キッチンで食事をする、中庭で語らう、写真集を眺める、楽器に触れるなど、とりわけ特別なことがあるわけではない。しかし、スタッフが醸す空気感やホスピタリティも含めて、上質な物事に囲まれた環境が最高で、だからこそ、すべてが極上の時間に感じた。帰国後はきっと自宅のインテリアや日々のライフスタイルをあらためたくなるに違いない。
宿泊時の居心地の良さはもちろん、その後の人生にも良い影響を与えてくれる、理想の暮らしのお手本のようなホテルが「エトヘム」なのである。
エトヘム
https://slh.com/hotels/ett-hem
SLH(スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド)
https://www.slhhotels.jp/ https://slh.com/
フィンエアー
https://www.finnair.com/jp-ja
Photo & Text:Hiroya Ishikawa