特別インタビュー

株式会社星野リゾート
代表 星野佳路 インタビュー[後編]
[ニッポンの社長、イマを斬る。]

2026.06.30

株式会社星野リゾート<br>代表 星野佳路 インタビュー[後編]<br>[ニッポンの社長、イマを斬る。]

「教科書通りの経営」を貫き「星のや」「界」「OMO」「リゾナーレ」など国内外70施設超を展開してきた星野リゾート。合理性と現場との対話を重んじる四代目代表・星野佳路氏は自身が掲げる「70歳での引退」を見据え、次の100年をどう描くのか。

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細い道を最初に行く会社でありたい

創業112年を迎えた星野リゾートには次の100年の布石となりそうなプロジェクトがある。 29年、北米に温泉旅館を開業する。観光業界に長らく横たわってきた疑問──なぜ、日本のホテルは海外に勝てないのか?──への星野なりのアンサーでもある。

「1980年代、日本のホテルが相次いで海外進出しましたが、結果的にうまくいかなかった。一般にはバブル崩壊が原因とされていますが、僕はそうではないと思っています。当時はシカゴのホテル開発会社で働いており、現地の人からよく尋ねられた。『なぜ日本のホテルがアメリカに来て、西洋式のホテルをやっているんだ』と。全くもってそのとおりで、寿司を握れる職人が、海外だからとフランス料理店を開くようなもの。問題はバブル崩壊ではなくマーケティングだったと思っています。

日本のホテル会社が海外に出ていくなら、まずは温泉旅館からだと当時、確信しました。露天風呂があり、和食があり、日本庭園と建築がある──日本ならではの体験を、そのまま持ち込むこと。文化も慣習も違う場所で成立させるわけですから勝ち筋が見えているわけではありません。けれど日本のホテル会社が海外に行くのならその細い道を進むしかない。僕が生きているうちに、その道に最初に踏み込む会社になりたいと思ったんです」

星野の留学時代、「日本人はローフィッシュを食べるんだろう」とからかわれた。だが、そう言った同級生は今や当たり前のように寿司を食べている。 25年の訪日外国人数は4000万人を超え、地方の露天風呂を楽しむ外国人の姿は珍しくなくなった。

「20年前のインバウンドって650万人だったんですよ。もう十分に増えたと思っています。日本の観光業はブームをつくるのはうまいんです。団体旅行ブームやスキーブーム。スキーなんて最盛期は1800万人だったのが今は600万人ほどになってますからね(笑)。大事なことは政府目標の6000万人に届くかどうかよりも今の4000万人を維持できるかどうか。20年後に『昔、インバウンドブームってあったよね』とならないことが大切です」

ニッポンの社長、イマを斬る。_後編 400_1

教科書があるから待てる

今回、多くの戦略を語るとき、星野は例外なく出典をつけた。フラットな組織とファシリテーションはケン・ブランチャード、OMO立ち上げ時にはデビッド・テイラーの『ブランドストレッチ』理論等々。今も、課題に直面するたびに新しい「教科書」を本屋で探す。これぞという一冊を見つけたら何十回も読み、線を引き、完全に自分の血肉にする。独自解釈は決して加えない。

「ビジネスパーソンにアドバイスを送るとすれば、セオリーを大事にしましょうってことですかね。定石通りにやっていれば失敗のリスクを劇的に減らすことができ、何より行動に自信が持てるようになります」

終始ブレなく淀みのない星野だったが、言葉につまる質問がひとつだけあった。多忙の合間を縫って年80日間の滑走を掲げる、そうまでしたいスキーの魅力とは何なのか。

「……正直、よくわからないんですよね。中毒なんですかね」

昨年5月、立山でバックカントリースキーに挑んだ。リフトのない山を6時間歩いて登り「もう死ぬかと思った」。登っている間は「つらいし、嫌だし、最悪」「なんでこんなことをやっているんだろう」とまで思うのだ。それでも数分の滑走を終えると、決まってこう感じてしまう。「来てよかったって。でも、それがどうしてなのかはよくわかりません」

70歳での引退を公言している星野が、経営に立つのはあと5年ほど。引退のプロセスもセオリーに従い、段階的に関与を減らしていきたいと語る。承継という職務を終えた後は「あとはもう滑るだけですね」と笑った。

  • ニッポンの社長、イマを斬る。_後編 400_2
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プロフィル
星野佳路(ほしの・よしはる)
1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、米コーネル大学で修士課程修了。1991年、星野温泉(現・星野リゾート)四代目代表に就任した。所有と運営を分離する「運営特化戦略」を確立し、2013年には星野リゾート・リート投資法人を上場。破綻した施設の再生を数多く手がけ、国内外70以上の施設を運営する規模へ成長させている。2026年3月時点で65歳。2029年の北米進出を目指す一方、年80日の滑走を掲げる熱狂的スキーヤーでもある。ファミリービジネスの理論に基づき、70歳での引退を公言している。

「アエラスタイルマガジンVOL.60 SPRING/SUMMER 2026」より転載

Photograph: Kentaro Kase Text: Mariko Terashima

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