週末の過ごし方
最高峰の美が同居する。
ベルベストとヘンダーソンの本拠地、ヴェネト州を訪ねて──
2026.11.04
ミラノから車で約3時間の場所に位置する北イタリア・ヴェネト州。水の都ヴェネチアにも近い古都パドヴァの周辺は、イタリア屈指の「最高峰のエレガンス」が生み出される拠点でもある。世界中の紳士から愛される名門Belvest(ベルベスト)、実力派シューズファクトリーHENDERSON(ヘンダーソン)。ひとつの土地が育んだ、至高の服づくりと靴づくりの真髄を探る。
想像を超えるスケールと精緻な手仕事。名門「ベルベスト」の美学が宿る現場
古くから高度な手作業のクラフツマンシップが息づく職人の街ともいえるヴェネト州パドヴァ。この地に1964年に創業したBelvest(ベルベスト)は、誰もが知る超一流メゾンのプレタポルテを手掛けてきた実績を持つ、イタリア随一のファクトリーブランドだ。
同ブランドのジャケットを着て驚くのが、シャツを羽織っているかのような軽やかな着心地。これはマシンメイドと最高峰の職人技を融合した、精緻な仕立てによって実現している。首回りや肩などの身体の動きに直結する重要なパーツは、今もなお丁寧なハンドワークで仕上げられているのだ。
今回はベルベストの美学の心臓部ともいえる、ものづくりの現場を見学させていただく貴重な機会をいただいた。工場の規模は想像以上で、300名以上の職人やスタッフが界最高峰の服づくりに情熱を注いでいる。
カッティングや縫製、アイロンなどの高度な職人技は目を見張るものがあったが、一番興味深かったのは、生地に独自の地直し(前処理)を行っていること。そのまま使用するのではなく、一度水を通して生地を落ち着かせて、適切な湿度や温度管理のもと一定期間寝かせている。この工程を入れることで仕立てた後の型崩れを防ぎ、さらにはドライクリーニングに出しても生地の持ちもよくなるという。
織ったばかりの生地は、糸がピンと張った緊張状態にあるため、それを落ち着かせるために水通しをするという。
ベルベストでは芯地も地直しするが、これは表地との縮率のズレを防ぐためでもある。
見えない部分にこそ時間をかけ、極上のクオリティを守り抜く。そんなベルベストの服づくりに対する真摯な姿勢と美学の真髄を、まざまざと見せつけられた工場視察となった。
高級婦人靴の聖地で貫いたメンズの矜持。パドヴァのプロも選ぶ名門「ヘンダーソン」
パドヴァからヴェネチアへと続くブレンタ川流域は、高級婦人靴の聖地としても有名。誰もが知るラグジュアリーメゾンの靴の多くは、このパドヴァ周辺のファクトリーに委託され、職人たちの手によって生産されている。そうなると自社ブランドも人気が高いだろうと思うかもしれないが、そのほとんどの知名度は低いままということが多いという。
90年以上も歴史のある老舗HENDERSON(ヘンダーソン)は、自社ブランドの地位も確立している稀有なブランドだ。しかも婦人靴の製造が盛んなパドヴァでは珍しく、メンズが支持されているというのも興味深い。その理由を紐解くと創業時まで遡る。そもそもメンズのハンドメイド靴がブランドの原点だったということもあるが、周囲の工場がメゾンブームに乗って婦人靴のOEMへとシフトしていく中でも、頑なにメンズ一筋の職人技術を守り抜いたのだ。
靴のラボラトリー(工房)はどこか閉鎖的で雑多なイメージがあるが、彼らのラボラトリー内は驚くほどクリーンで、自然光が差し込む明るく開放的な空間が広がっている。まるでモダンな建築ミュージアムのような美しい現場で生まれているからか、ヘンダーソンの靴はシンプルで今日的だ。ドレスシューズからブーツまでラインナップも豊富だが、特におすすめなのはドレススニーカー。オールレザー製で品のある足元を演出でき、セットアップからカジュアルスタイルまでフィットする。
現在は婦人靴も手がけているものの、今もなお男性からの支持率が非常に高いヘンダーソン。ちなみにパドヴァで出会う靴産業に携わる男性の足元は、ほぼ全員と言っても大袈裟ではないほどヘンダーソンだった。メンズ専門のクラフツマンシップを磨き続けているからこそ、同業のプロたちをも虜にするのだろう。黒子に甘んじないその経営センスと確かなプロダクトの力こそが、ブランドとしての地位も確立できた理由かもしれない。
問/菅原靴店 https://sugawara-ltd.com
協力/イタリア靴メーカー協会、イタリア大使館貿易促進部、ヴェネト東部産業連盟
Text: Kyoko Chikama